うずまさ学園高等部 詰め







 うずまさ学園高等部。 理事長ボンドの都合によって、時に共学、時に全寮制の男子校にと、 学校のシステムそのものが変化する仮想現実の高校を舞台に繰り広げられる、 さまざまな恋の風景を切り取った物語です―――


最新更新ページには ここから 飛べます。

***********************************



『高校一年生の村上秀夫と一個上の山田勇次先輩』


● 花火 ●


 ここに恋する美少年がひとり。一年生の村上秀夫だ。今年の誕生日が来ていないので、彼はまだ15歳だった。 が、中学三年になった辺りから少しずつ伸び始めた身長と、恋する一途な気持ちだけは誰にも負けていない。

 地元の夏祭りでは最大の規模である花火大会に、今夜憧れの勇次先輩と来ている。
 二人きりで、といいたいところだがそうではない。 正確には部活の一年生の仲良しメンバーが男女入り交ざり集まって、 花火を観ようという話が持ち上がった。今はだんだん増えて来た祭り客の人混みのなか、メンバーの待つ河川敷へと向かう途中だ。
 秀夫は、放送部の先輩で二年生の山田さんを誘う役目に、男子の中でひとり自分から手を挙げたのだ。 女子たちの互いの牽制ゆえか、ラッキーなことにその役を勝ち得たものの、 残念ながら、その時にもほんとは自分が一番来てほしいということは、先輩に伝えられず仕舞いだった。
 持ち前の美声とそれに見合ったイケメンの山田勇次は、とにかく学校でも有数のモテ男である。 山田が出る日の昼の放送を心待ちにしている生徒がごまんといる中、部活の女子たちが『勇次先輩も来てもらおうよ!』 と騒ぎ出し、心の中では一緒に先輩と見る花火を夢想していた秀夫は、つい手を挙げずにはいられなかった。
 秀夫もかなりな美形なのだが、天然のあひる口と黒目がちの大きな瞳のせいか、 『可愛い』認定されてしまっている。男どもには人気があるのに、今のところ女子たちの目には『友』にしか映らないらしい。 憤慨しながらも、そんな秀夫自身が山田先輩と身近に接するうちにいつのまにやら恋をしてしまっていたのだから、 今さら文句のつけようもなかった。


「二年もオレだけか?秀夫」
 雑踏のなか前を行く、自分よりかはまだ背の低い後輩の後姿に勇次は訊ねた。
「はっ・・・はぃ、そうです」
 大好きな先輩のシルキーボイスにドキンと胸を高鳴らせて振り向いた秀夫は、 まだ明るい夕暮れの陽ざしに汗ばんだ頬を光らせて答える。私服姿の先輩もやっぱりカッコいい。 なんか爽やかないい匂いもする。
「ふーん・・・。知らなかったなぁ」
「あ・・・もしかして、ま、まずかったですか・・・?」
 当日になって今さらおずおずと確かめてくる後輩に勇次は笑って首を振った。
「そうじゃねぇけど。オレなんかが行っていいのかなーとちょっと思ってさ」
 放送部の三年生が呼ばれていないことを、ついさっき秀夫から聞いたばかりだ。口うるさい三年生が気を悪くしそうな話だが、 他の二年生も呼ばれてないとなると、これはやっぱり個人的な誘いなんだろう。 勇次は自分の想像が当たっていたことに内心満足したが、この律儀で健気な一年生から本音を引き出してやろうと、 わざと迷うような声で訊いた。
「お前こそ、オレの迎えまでさせられて大変じゃないの?ホントは皆と早く合流したいよなぁ・・・」
「いやっっっ!!そんなことっっ、全っっ然、俺は構わないです!!」
 秀夫が周囲の通行人が振り向くほどにデカい声で、強く否定した。 勇次の言葉をそのまま受け取ったらしく、嫌じゃないとブンブンと首を横に振って否定する。
「おっっ・・・、俺・・・俺は―――せ、先輩が来てくれたら嬉しいんで―――。大変なんてちっとも、」
「そうか?オレに気ぃ遣って言ってるとか無い?」
「そんなことぜったいにぜったいにないです!信じてください!!」
「―――ホント?じゃ、誰が最初にオレを誘おうって言い出したの?ひょっとしたら秀夫、お前?」
 両手に重そうなビニール袋を下げたまま、秀夫はグッと詰まった。みんなと合流する前に、 待ち合わせ場所に迎えに来た秀夫とスーパーに寄り、二リットル入りのジュースのボトルやら袋菓子やらの買い出しをしたのだった。 手伝うという申し出を断ってひとりで全ての荷物を持った後輩は、 勇次の問いかけに、何と答えていいのか分からないように下を向いた。暑さのせいかと思ってたら、 急に頬から耳まで真っ赤になっている。
「・・・さ、さぁ―――。な、なんとなくみんなで話してるうちに・・・、じょ・・女子たちが――」
「そうなんだ。残念だな・・・」
 えっ、と驚いた顔を上げた秀夫は、大好きな先輩が何か気を悪くしたのかと思い焦った。 自分がもちろん個人的に誘いたいと思った。でもそんなこと、叶うわけがない。それどころか気味悪がられるかも。 だからこそ女子たちを隠れ蓑に、自分の気持ちを覆ってきたのだ。
「な・・・なにがですか!?」
「うん。三日前の部活のあと真っ赤な顔してオレを呼び止めて、 花火大会の話を持ち出してきたある後輩が―――、めちゃめちゃ可愛かったから」
「―――――――」
「前々からオレのことチラチラ見てるなーとは気づいてたけど」
「―――――――」
「やっとそいつが口開いてくれて。てっきり個人的に来てほしいんだと思ったから、オレ嬉しくて・・・。 他の女子たちの誘いをみんな断って――そんで今夜は、愉しみにして来たんだけどなぁー」
「・・・・・・」
 驚いた表情から見る間に羞恥を立ち昇らせる顔も、正直すぎてこっちの胸をキュンとさせる。 互いに足を引っ張り合う女の争いを肌で感じているだけに、 自分自身が来て欲しいと思った気持ちすら伝えられずにいる、この男の後輩の純情さが新鮮だった。

 イカ焼きやトウモロコシの焼ける煙と匂いが広がる露店の並ぶ中、通行を邪魔していることも忘れて二人は向かい合っていた。 後輩の両手がふさがっているのをいいことに、 ぽかんと半開きになったままの口許を勇次の指がつまんだ。びくっと目を見開く秀夫。
「―――へ・・・へん・・・・・へんぱい―――・・?」
「暗くなって―――花火上がってしばらくしたら―――。ふたりで消えよ?」
「――――はぇ・・・?―――へえええっ!?」
 口よりも物を言う目が限界まで見開かれ、口からも掠れた悲鳴が漏れた。勇次が苦笑して手を放す。
「そんなに驚くなよ。どっか別の土手に座って――、ふたりで見ようぜ、花火」



 数時間後。晴れ渡った群青色の夜空を、色とりどりの花火が轟音と共に埋め尽くす。 知った顔のない、いわゆるカップルたちが少しずつ等間隔を空けつつそれぞれに座っている特等席の土手で、 秀夫はまだ夢を見ている心地で空を見上げていた。
 Тシャツから出た肘同士が触れている。いつも涼し気に見える先輩でも、汗はかくんだな。 思わず浮かんだ笑みを唇を噛んでやり過ごしていると、
「さっきから何二ヤついてんだよ」
 いつの間にか見られていたらしく、大好きな先輩にまた頬を優しくつねられた。







● 初詣 ●


 新春早々に、約束してた初詣に行く勇次ぱいせんと秀夫くん。

 待ち合わせ場所に着くと
「ぱいせーん!」
 ニットキャップにタータンチェックのマフラー姿の秀夫くんが駆け寄ってきました。
「あけましておめでとうございます!」
「あ。おめでと…」
「今年もよろしくお願いします!」
「よろしくな」
 満面笑顔の後輩に内心ドキッとしてるぱいせんです。


 すごい行列のなかを話しながら進み、ようやく参拝。チラと横目でみると、 さっきまでと違う超真剣な表情で硬く目を閉じてお参りする秀夫。頬を赤くした横顔にも何気にキュン…とキテます。
「・・・真剣に何お願いしてたんだ?」
 尋ねてみたら照れた顔して上目遣いになり、
「先輩は何お願いしたんですか?」
と、はぐらかされてしまいました。
(・・・その目にムラッとくる・・・・)
 神聖な場所でも不謹慎な勇次ぱいせんの心も知らず、
「あっ、おみくじ!引きませんか?」
「そうだな」

 引いたおみくじは、選びもせずに手に触れたのを引いたぱいせんは大吉。秀夫くんは…
「ええええ」
「凶!?てか入ってんだな、ちゃんと。うわーオレ初めて見るわ、凶引いたヤツwww」
「ちゃんと選んだつもりです…」
「選ぶから逆に引いちゃうんだよ、馬鹿だねえww」
 からかうと可愛い天然のアヒル口をツンと尖らせた秀夫くん、
「いいです!凶ならこれ以上悪くなりようがないんだし、平気です!」
「・・・」
 ポジティブな答えを裏打ちする笑顔に癒されるのは、大吉引いた側。

「じゃ、せめてオレがお前にお守り買ってやるよ」
「ほんとに!?」
 さりげなく肩を抱いて売り場に行けば、たくさんの御守りが並んでいます。
「うーん、いっぱいあって迷いますね」
「どれでもいいぜー」
「先輩は?」
「オレ?」
「先輩とお揃いがいいです!」
ズキューーーーーン…………
(こ、こいつ・・・)
 無意識にぱいせんのオトコ心のツボを押しまくりの秀夫くん、いけませんね?!


 楽しい初詣の帰りぎわに、
「あ、忘れるとこでした。これ・・」
秀夫くんが差し出したのは、手書きの年賀状でした。
「・・・送るもんだろ、ふつー」
 嬉しいくせに何か照れ臭くて勇次ぱいせんが突っ込むと、
「会えるから、直接渡したいなって・・・」
自分も恥ずかしそうに小声になりながら、手元に押し付けようとする後輩に、
「あああ!もー辛抱たまらん!!!!!(がばっ)」
「!!!!!」
 人目もはばからずハグされて逃げる間もなく手を掴まれる秀夫くんです。

「どこか二人きりになれるとこ行こ」
「………はい(照)」



************


 追記。その後。

 広い神社のひと気のない場所でとりあえず酸欠なる位にお正月キス。 マフラーずらしていい匂いの首すじに鼻先を押し付ける暴走カレピ。
「ぱ…いせん…ダメです…っ!罰当たりますよぉ…」
「ガマンできん…」
 まだラブホには入れないから、とりあえずカラオケに直行する高校生バカッポーでした…。








分館topに戻る