うずまさ学園高等部 詰め







『みんなから愛されてる陸上部の鬼、秀パイセン』


● stand by you 1●


 今年もまた、うずまさ学園陸上部の冬季合宿が、林間学校で行われている。
 生徒たちは食事を当番制で作ることになっているのが、代々受け継がれてきた伝統だったが――――。 ここに重大かつ深刻な問題が持ち上がり、合宿に参加している生徒のみならず顧問の先生の間にまでも、 その不安の黒雲は広がっていた。


「あー腹減った。なぁ、今日の晩飯誰の当番?」
「・・・訊くな。考えないようにしてたのに・・・」
 ごった返す脱衣所で、その答えに訊いた生徒も聞いていた周囲の顔色もサッと青ざめた。
「ま、ま、まさか――――」
「そう・・・。そのまさかだよ。秀パイセンの恐怖料理〜〜〜〜〜」
 小声で言いながらすでに、去年の体験を思い出しただけで吐き気がこみ上げてきたらしく、 ウッと口元を押さえている。
「げええ〜〜〜」
「去年、我慢して完食したおかげで腹壊したやつが三人はいたらしい・・・」
「いや、おれは八人って聞いてるぞ・・・」
「どっちにしろ、死は免れないってことか・・・」
「だからみんなこの日の為にカップ麺とか買い込んで来てんだよ!」
「その方がいい、、死にたくなければ・・・」


 散々なことを噂されているとも知らない秀さん、ひとり合宿所の台所に立って甲斐甲斐しく何やら作っておりましたが、 やおら振り返ると館内放送のインターフォンを鳴らしました。
「おい!飯だ、出来てるぞ。いつでも来て食っていけ」

「・・・し、しつれーしまーーす(ガタッ)」
「・・・ます(ガタガタ)」
 恐る恐る集まってきて暗い顔で椅子に着席する生徒たち。可愛い顔して誰よりも怖い秀パイセンに逆らえる者などいません。
「ん?どーしたお前ら?なんか元気がねぇな?そんなに腹減らしてたのか」
「いっイエ!と、、、とんでもな・・・」
「お、おれもなんか今日はあんま腹減ってなくって!(必死)」
「バカ、お前ら合宿はまだ始まったばかりなんだぞ!ヘンな遠慮なんかしてねぇで明日に備えてしっかり食ってスタミナつけろ!」
「はっ、ハイッ!」
「ほら、大盛りだ。残さず食え」
 出されたシチューのような豚汁のようなごった煮のような?? ……とにかく得体の知れない奇怪な色と匂いの食物(と言えるのか)の入った丼を前に、全員がゴクリと絶望に喉を鳴らします。
(((どうやったら普通の食材使ってこんな人間の食べ物じゃないブツが出来上がるんですか・・・!!!?)))
「なにぐずぐずしてんだよ?後がつかえてんだからサッサと食って代われ!」
「「「・・・い、、、、た、、だき、、、、ます・・・」」」
 意を決して一口汁を飲んだ途端、震えて箸を置いた後輩たちを見回して不思議そうな顔になる秀さん。
「どうしたんだよ?オイ!?」
「「「(全員起立)す、、、すいません先輩!!!!ご、、、ごめんなさいっス!!!」」」
 テーブルにおでこをぶつけるくらいに頭を下げると、みんな口を押さえてあっという間に逃げ去ってしまいました・・・・・。

 ポカンとして見送り、しばらくして徐々に眉間にしわを寄せる秀パイセン。
「・・・っ!なんてしつれーな奴らだ(怒)!せっかく作ってやったのによ!」
 確かに料理が出来るとは自分でも思っていないが、それでもみんなの栄養バランスのことを考えて一生懸命に作ったつもりです。
「全部いっしょくたにして煮たのが悪かったのかよ・・・、ゼータクいいやがって!見た目ほどそんな不味くは・・・」
 ぶつくさ言いながら自分でも一口食べてみた秀さん、
「・・・っ」
味見用の匙を取り落とすと、慌てて大量の水を飲み下します。
「くそ・・・」
 エプロン姿のまま、落ち込んでひとり頭を抱えてテーブルに座っていると。

「ったくよー。主水の野郎!!」
 ガラッと乱暴に戸を開けてズカズカと入って来たのは、主将の勇次でした。
 副主将の秀がムチなら勇次はどちらかと言えばアメ役。そんな普段めったに感情を表に出さない勇次が、 珍しく怒り心頭に達しています。
 どうやら顧問の中村先生とまたバトったらしい。なぜか見事に勇次とは相性の悪い顧問の愚痴と罵詈雑言を、 秀の向かい側に座るなりまくしたて始めました。
「・・・って言いやがんだよあのバカ」
 イライラと舌打ちしながら、自分のちょうど手元に置かれたままの後輩の残した丼を持ち上げる勇次。
「あ、そ、それは…」
 秀さんが止める間もなく、ガツガツと流し込んでいます。
(く、、、食ってる・・・((((;゚Д゚)))))))!)
 食べながらも怒りは収まらないと見え、
「・・・ってオイ、聞いてるか秀!お前ならオレの言ってるイミ分かんだろ?」
目の前の丼を次々と空にしながら尚も顧問をディスり続けたのでした。


 その夜遅く・・・

 主将の権限で副主将と二人部屋を使っている勇次さんが、ベッドのなかで背中を向けた秀さんにポツリと一言。
「お前・・・。今日は激しかったけど・・・( ^ω^)なんかあったのか?」
「・・・訊くな」

 完食うれしかったらしいです。。。







● stand by you 2 ●


相談「男子校なので出会いが『全く』ない……」
回答「クマノミという魚はメスがいなくなると一番大きなオスがメスに性転換します。女子高生になってみてはいかがでしょうか?」
――京都水族館(京都市下京区)に掲示されている「恋愛相談」が、ユニークな回答で話題になっているそうです。

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 ハイ!そうですね!ハァハァハァハァ… ←
 秀くんが秀美ちゃんに変身すればいいだけのこと、簡単な話ですよ〜!??



 今回のうずまさ学園高等部は男子校なんですね(ありがち)。
 その学祭において部活対抗の出し物を競わせるステージ部門で、 何かをしなければならなくなった陸上部。三年生は基本的に監修するだけで口出しは禁物、というのも伝統です。

「で、何やるんだ?」
「今年はU.S.Aだろ」
「ダメだ。バスケ部がやるって言ってる」
「コーラスとか・・・?」
「男だけで寒すぎだろ!」
 あーでもないこーでもないと話し合うなか、ひとりの一年生がおずおずと切り出しました。
「あの・・・いいですか?劇なんてどうでしょう?この際男だけってのを逆手にとって、こてこてのラブストーリーとか・・」
「うーん、ありがちだけどまぁウケを狙えるかもな」
「違うんです。ウケ狙いのさらに斜め上をいって、本気の劇をやるんですよ!男の娘をヒロインにするんです」
「誰が演るんだよそんなww ハンパなのはかえって白ける」
「そーだよ、女装させてそんだけサマになるヤツな…ん………」
「!!」
「あっ、、、」
「・・・いる・・・!一人だけ・・」
「ええ、います。陸上部には男の娘になれる人が1名だけ・・!」
「そ、、それって誰だ?順之助?!」
 キラリと妖しく目を輝かせて声をひそめた一年生に、参加者全員が前のめりになりました。
「・・・もちろん、秀先輩です」

 一瞬の空白の時間をおいて、ハァアア・・・ンとそれぞれに不謹慎なため息を吐き出す後輩たち。
「やっぱりなぁ!おれも絶対そうだって思ってた!!」
「パ・・パイセンの飯はやばいけど、あのエプロン姿はたまんないよなぁ・・・」
「あのすらっと長くてキュッとふくらはぎ締まった生脚にブルマー履いて欲しい、、って・・・ずっと思ってたわ・・」
「それ言うならおれはミニスカポリスになった秀さんに叱られて(踏まれて)みたい・・・」
 じつは脳内(ついでに股○も)で膨らませてきた妄想を次々に告白してゆく暴走部員たち。
「ああー。おれもぉ劇しか考えられねーわ、出し物」
「決まりだな!」
「いいアイデアだ。やるな、順之助」
「ありがとうございます(揉み手)! 僕もどーにかして秀さんを男の娘化させてみたかったんで…(邪笑)」

 話(陰謀)がまとまったところで、ひとつ質問が出ました。
「ヒロインは秀さんに決まりだけど、じゃあ相手役は??」
「・・・・・」
 ナニかを想像して、勝手に照れまくる部員たち。
「やっぱり・・・キッ、、キスシーンとかあるのか?」
「あったほうが盛り上がるだろ、、もちろん・・・」
「・・・おれ、立候補しよかな…(ボソ)」
「そっ、それならオレもだ!」
 すでに妄想が先走り血走りかけている二年生のあいだに割って入ったのは、冷静な一年生でした。
「待って!落ち着いて下さい、先輩方」
「これが落ち着いていられるか!」
「そうだ!!」
「全く。冷静に考えてみて下さいよ!秀さんに主演をお願いするには、山田主将の認可を貰うのが先なんですよ?」

「「「「「・・・・・・・・」」」」」
 順之助の一言で、白熱した場がプシュ〜〜と焼け石に冷水をぶっかけられたように萎みました。
「そうだった・・・。ボスがいたんだ・・・(ガックリ)」
「ムリだ・・・。秀さんの相手役なんてなった日には・・・裏山に吊るされる・・・←」
「間違いなく自分が演るって言い出すだろーな…、あの人なら・・・」
「ま、、うちの部で断トツにイケメンなのも主将だもんね・・(ちぇっ)」

 ようやく現実を見た部員たちを見回し、今回プロデューサー兼AD役をかって出た順之助が、話し合いを締めくくりました。
「秀さんの可愛い姿が見たかったら、大それた夢は持たないことです!僕が主将に話を持って行きますから、 皆さんは『秀さんの相手役には勇次パイセンしか考えられないって、満場一致で決まりました』って、 口裏合わせをお願いしますよ(邪笑)」


 その後。
 寝耳に水の主演依頼に仰天し、赤面激怒して秒で却下した秀パイセンでしたが、
「諦めろ、秀。可愛い後輩たちの手助けはしても口は出さない、って伝統を忘れたのか?」
威厳のある言葉のわりに満面笑顔の主将に制されて、涙を飲んで男の娘になることを承諾するのでした・・・・・

 演目は、山田主将が個人的に秀さんにさせたい格好および、ストーリー上のおいしい展開が最優先され、 ベタに『眠りの森の美女』と決まったそうです☆








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