恋 2






 中庭に向いた障子をほんの僅か開けたその隙間から、晩秋の西日が畳に細長い筋を描いて薄暗い室内(へや)に射した。
 茜色の光の先が、点々とわだかまる二人分の衣の上に歪んだ道を作り、 やがて床に散った癖のある黒髪に辿りつく。乱れた髪を顏に纏いつかせて、秀はうとうとしている。
 くったり脱力した体からは、まだ甘怠い余韻が抜けない。 陽のある内にこんな事をしてしまった後ろめたさもあって、先刻まで絡み合っていた相手に背を向ける格好で丸くなったが、 久しぶりに聞いた熱い息遣いは今なお耳の奥に残っている。
 背後で起き上がる気配がした。眠りの中でも、寂しさが意識するより先に胸を掠めた。 と、裸の背中にふわっと熱っぽさを感じた。
 身を起こした勇次が、後ろから覗き込んでいるようだ。さっきまで包まれていた肌の匂いがまた近くなる。 言葉でないものに目を覚まされてしまった秀は、ぼんやりと瞼を開けた。
 目元まで被さった髪のあいだから、横目で勇次を見上げる。 白い頬に鬢のおくれ毛の影を落とした男の愛おしむような眼つきと出会い、胸と体が同時に疼いた。
「・・・んだよ・・・?」
「いや・・・顔が見えねぇから。髪伸びたな」
「・・・。見なくていい、こんなツラ」
 照れ隠しの強がりには慣れてしまったのか、応(いら)えの代わりに温い手が秀の髪に触れる。 全体を何度か掌が撫で、それから乱れた髪を手櫛で梳き始める。
 これまで一度として髻を結ったこともなければ、そうしたいと思ったこともない。 単に面倒なのと癖の強い髪質のせいだが、勇次と寝るようになってからはこの蓬髪のままで良かったと思う。 それは勿論、おくびにも出さないことだったが。
 こめかみから頭皮をゆっくりと辿る長い指の動きに委ねるうちに、また瞼が重くなる。 露わになった自分の横顔に、さっきと同じ眼差しを感じた。
「布団に行くか、秀」
「・・・帰らせねぇつもりかよ―――」
 呟きながら、急ぎの品はなかったよなと頭の隅で確かめた。





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