筋書きにはちょっと強引さも感じましたが、加代が情報屋として体張って仕事しているのが良かったです。
 しかも、今回のゲスト(という名の犠牲者)政吉は、無印冒頭で秀のマブダチ・宗次役を務めた方なんですね! 純朴で健気な優しい青年というキャラクターも重なり、より一層不憫な役どころでした。
 めげない加代につきまとわれ自分側の情報は仲間に筒抜けと知りつつ、あくまで突っ張って仕事人たちと一線置こうとする勇次ですが、 今回の一件で変化の兆しを見せるか?
 チームに呼び出された際の、秀の三味線屋を見る目付きと切りつけるような言葉(でも本心を引き出したい気持ち満々)、 自分でも無自覚の強い意識(ライバル視=認めてる)をビンビン感じさせ、 ほんの僅かの接触シーンながら大変萌えさせて頂きました。



***********************************



 勇次は、さらさらと穏やかに流れる浅瀬の岸に佇んでいる。
 一人になりたいとき、たまに釣り糸を垂れに訪れる場所だ。先日思わぬ大物を釣り上げた。
 生きた女だった。名前以外は記憶を失くしたというふみというその女を、勇次はしばらく自宅に住まわせることにした。 真実を言っていないと直感的に思ったが、そこが勇次の気に入ったのだ。 記憶しているからこそ死にたくなる過去ならば、自分にも覚えがある。
 やがてふみを探して現れた兄の政吉にも、純朴そうな態度の中にどこか後ろ暗い影を感じた。 人に言えない秘密を持ち、その泥水から脱け出せずに藻掻いている。 それはやはり 、母と別れた後もいまだ迷いつつ仕事人の世界に居続けている己の姿と重なって見えた。
 それ以上関わりを持たず、見守るだけのつもりでいた。しかし政吉の方から助けを求めてきたのだ。 裏の顔を隠し持つ者の血の匂いを、政吉もまた勇次から嗅ぎ取っていたようだ。
 念仏講を隠れ蓑に、押し込み強盗一味を率いていた悪僧・知識のもとから妹を救い出すため、 自らの命を犠牲にした政吉。勇次は誰にも頼らずただ一人で事を成すつもりでいたが、 結局は危ないところを間一髪、裏の仲間たちの助勢により救われた。
 立ち去る際に、あの皮肉屋の錺師がくれた一瞥が思いがけず冷たくなかったことが、勇次の頑なだった心をいま揺らしている。
 独りで生きてゆくには確かに人生は長すぎる。 だが、こうして誰とも相容れぬ寂しさを抱いて、水の流れを見送るしかない時もある───。先のことは分からないにしても。
 今日は釣り竿の代わりに持ってきた白菊の花束を、石の上に腰を屈めて一本ずつ水に放つ。 血の匂いも消え真っ白な骨になった兄を胸に、女はいずこともなく江戸を去って行った。
 三味線屋に居る時には一度も見せなかった笑顔を取り戻す日が、いつか来ることを願いつつ。






★ 妄言ノ間「目次」に戻る


★ homeに戻る