ここまでの展開でも、秀の思い込みの激しさ(一途といって良いものか)はかなりアレでしたね。
それだけ日々孤独や空しさを抱えて過ごしていたのか・・・と無理やりこじ付けると(笑)、 お絹清太郎親子という優しさを注ぐ対象を見つけて、己の存在意義に一気に目覚めちゃったようにも見えました。 それがさらなる暴走波乱を呼ぶ。いよいよ今作のクライマックスシーンに突入です!
ところで加代の説明によれば、二人が長屋に越してきたのは「五日ほど前」。出会ってまだ二週間も経ってなくね? そんな超短期間であそこまで熱くなれるもんですか、恋する漢とは。それは一般人と異なる妖精ならではの感覚?
「ま、一目惚れってのは頭(ここ)で考えて止められるもんじゃねぇんだよ」
そうなんですか?恋の手練れがそう言うなら仕方ないですが・・・。
「オレもあん時秀と出会ってなけりゃ―――八丁堀なんかと仕事人やってねぇしな(ニヤリ)」
新必殺初回にて、五日どころか光の速さで恋に堕ちた三味線屋さんの談話でした。


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昼間のいつもの蕎麦屋で。
「ったくしょーがねぇなぁ。あーもう持ってけドロボー」
加代から依頼の結果報告を聞いて銭を放る八丁堀。珍しく金払いのいい八にほくほく顔の加代ですが、ふと声をひそめて、
「あの上総屋。今はなりをひそめてるけどね、昔は盗人稼業だったらしいよ」
丼から顔を上げる八。ほんとに加代、どこからそんな秘密を引き出してこれたのか。 密偵並みの仕事ですよねこれ。ってか上総屋、盗賊の前身がバレても商い出来るの? ご赦免の後に更生しましたからーってことですかね。お絹も足を洗って針仕事か何かで生計を立てているし。
「やっぱりそうか。おれぁどっかで見た顔だと思ってたんだ。 えーとたしか名前はなぁ・・・、暗闇の利平とかいったんじゃねぇかなぁ」
ビンゴ!今日の八は冴えております。そんな様子を伺いつつ、加代がそれとなく探りをいれてきました。
「―――ねぇ、ところでお絹さんと訳ありなんだって?」
まるで男女の云々を問われてるようですが、思わず蕎麦にむせた八は、バカな事云うなと速攻で否定。 そのわりにそそくさと立ち上がる袖を捕らえて、
「ちょっとちょっと。知らん顔したってそうはいかないわよ?」
何か嗅ぎつけてる加代に下手なごまかしは逆効果。と思ったか知らんが八丁堀、
「おれだってな。昔のことは言いたくねぇことだってあるわな。―――じゃ」
と、これ以上聞いてくれるなという態度で逃げるように立ち去ってしまいました。 そんな思わせぶりな言い方じゃかえって気になるだろ! 残された加代が首をひねって独り言。
「やっぱりおかしいねぇ・・・」
とは言っても八丁堀がお絹に対して秀から聞いたような非道を働いたと信じたわけじゃなさそう。 つき合いの長さによる観察眼か、それとも女の勘なのか。
その時、残りの蕎麦を啜っている加代の見える格子窓の外に、半纏の影がスッと立ち現れました。 マズい、今の二人のやりとりを妖精に聞かれてた! 八のとった言動みんなあやしすぎるし、こりゃあいよいよヤバいことになったぞ。
加代にバレてないことを確認し、八の去った方角を睨みつける秀。険しいその横顔には、決意めいた表情が浮かんでいました。


ところ変わって奉行所の資料室。ここでも真面目にお仕事中の八丁堀。
「どこ行ったかなあ・・・」
過去の事件簿の記録を探していると、廊下を通りすがりの上役が声をかけてきました。
「おい、中村」
「あ、上田様(一礼)」
「また熱心なことだな」
直属の田中様より気安い雰囲気の筆頭与力の顔を見て、はたと思い出し訊ねます。
「ああそうだ。六年前に暗闇の利平を召し捕ったのは、あれは上田様の係でしたなぁ?」
「・・・あぁ。それがどうかしたか?」
やや真顔になってあべこべに問いかける与力。
「いや、あんときどういう訳で、お咎めもなくご赦免になったんですかねぇ」
答えながらもなおも記録を探そうとしている昼行燈を、背後から胡散臭い目つきで見ていた上田様、急に笑いだしました。
「ハッハッハ!やめろやめろ、下手な探索は!」
くだらんと言わんばかりに一笑に付すと、八の質問には答えずそそくさと立ち去ります。
「・・・おかしいですねぇ」
その態度に不自然さを感じ取ったか、のほほんと背中で呟く主水。おまわりさんこいつです。やっと新展開きました。


一方、長屋ではお絹が小走りに誰かを探し回っていました。 井戸端で炊事しているかみさんたちにも、身振り手振りで我が子のことを訊ねるが、
「清坊?見なかったよ」
その返事にハッとなり、血相変えて長屋から走り出てゆきました。 入れ違いに戻ってきた加代がただならぬ様子を見て後を追うと、お絹は例の上総屋に迷わず駆け込みます。 奥の間で手下らをはべらせ待ち構えていた利平、掴みかかるお絹にせせら笑って言います。
「どうした?そんな怖え顔して。やっぱりオレの傍の方がいいのかい。へへっ」
若い男といい感じらしいのを丑松から聞いたんですな。手駒として使い捨てるだけの女にも粘着してくるドS屑。
「清太郎のことは心配することはねぇよ」
隣室からガキを連れて来させます。飛びつくように我が子を抱き締めるが、 そこで無理やり引き離され、 利平はお絹の顎を掴んで言い聞かせるのでした。
「主水の奴を殺ったら帰ぇしてやるよ。ハハハハハ」
しばらくして店から一人出てきたお絹の思いつめた表情を、物陰から見届けた加代。 これまで探索してきた上総屋の過去とお絹はどうやら繋がっているのではないか。 大きなネコ科の瞳をきらりと光らせた後、お絹に同情するような表情をフッと浮かべるのでした。


その夜。暗い夜道を一人歩いてくる中村主水を、大樽の陰にしゃがんで待ち伏せ、サンゴ玉の簪を構えるお絹の姿。
しかし掲げたその手首は突然何者かに掴まれました。 ハッとして見ると、そこに居たのはなんと長屋の秀さん!?ええええ、何故?いったいいつの間に!?
気配さえ消して横に潜んでいた秀は、まるで自分がこれからしようとする事を知っているかのよう。 それでもやるしかないお絹はその手を振り払おうとしますが、再度強く掴まれて、秀は無言のまま首を静かに横に振りました。
声にならない抗議を上げるも、秀は手から簪を引き抜くなり、お絹の目を見つめたままグサッと脇の樽にそれをぶっ刺します。 見ればその鋭い切っ先は、一匹の生きた女郎蜘蛛の中心を射貫いている!! まだ四肢をもがかせている蜘蛛。 尋常ならざる技を目の当たりにしたお絹、この優しく爽やかで世話焼きのイケメンがただの錺職人ではないと理解し、 茫然と秀の顔を見上げます。
一方秀は無言のまま、正面の通りからこちらに近づいてくる中村主水に顔を向けます。 そしてお絹をそこに残したまま、すぐ目の前を曲がって通過していった侍の後を追って飛び出してゆくのでした。
一人になったお絹、何だかこれまでと顔つきが違って見えます。 同業かどうかは分からないが、少なくとも秀もまっさらな堅気の人間じゃなかったと知って、どこか開き直った表情。
清太郎を救い出すために、手練れの秀に命を張ってもらうのが一番。 丑松が秀に話した中村主水に手籠めにされ喉を斬られたという過去も、真実かどうかよりそう信じさせる事が重要でした。 いま秀のとった行動はまさにお絹の恨みを信じきったからこそ。 声が出ないことと秀の恋心をなにげに利用していた、元かんざしのお絹の裏の顔が垣間見えました(褒めてます)。


帰り道の物陰でそんな緊迫したやり取りがあったことも知らず、八丁堀は何事もなく家に帰り着きました。 開け放した玄関口から、せんりつのいつもながらかまびすしいやり取りが外にまで丸聞こえ。
「りつ、りつ」
「ちょっと待って下さい。いまお風呂の湯かげんをみてるんですから」
「婿どのはねぇ、いつ返って来るか分からないんですよ。もう、早くからもったいない・・・」
相変わらずの姑の毒舌を背中で聞き流しつつ表門を閉めようとする八ですが、りつの返事は意外でした。
「夜遅くまでおつとめに励んでいらっしゃるんですから、少しは考えてあげないと―――」
自分の知らないところでそんないじらしいことを言っていたとは。気を好くしてにんまりと背後を振り返った直後。
疾風のごとく押し寄せた黒い影が、八の後ろ首を捉えた!!! 同時に真横から頸動脈に突きつけられた鋭利な銀の切っ先。 目だけ動かして見れば、正体はもちろん仲間の錺職人。
大きく見開かれた瞳でキッと八丁堀を見据えたが、至近距離で目と目がかち合うと動揺して、 迷うように視線を下に落としました。 そこにはなんと、すでに抜き身の刃が秀の半纏の脇腹ぎりぎりで寸止めされていたではありませんか!!!
ギャー八丁堀カコイイ――――!!!さすが居合の達人!!!
秀の秒殺技もすごいですが、表裏どちらの立場においても常に油断の出来ないベテランの方が上手(うわて)でした。 背後の秀に片腕を首に巻きつけられた状態で拮抗する二人。
「はぁ・・・、悪さやめろよオイ―――」
どっちも退くに退けないド緊迫の最中、
「キャー!りつ、猫っ猫!!!」
修羅場とは無縁の大騒ぎをする家族の声が、暗い門前にまで能天気に響き渡ります。 と、突如として闇を切り裂き飛んできた一本の糸!!!!
ファァァァァ――――!!!!(言語崩壊)それは過たず、秀の簪を掴んだ手首を捕らえた――――!!!!!

よもやよもやの三味線屋まで参戦とは!!不意打ちすぎて心臓が痛い!!! 秀がハッと振り向けば、片手で糸をグイと引きつけた勇次がひと言、
「無理すんな、やめろ秀!」
鋭く小声で止めます。待って、心が追いつかん(放心)! その静止にわずか秀の力が緩んだ一瞬の隙を突きどうにか腕をふりほどいた八丁堀は、 秀の鼻先で速攻で表戸を閉じるのでした。
はーやれやれ・・・間一髪で命拾い。真相を問いただすこともせず、こんな衝動的な流れで殺しにかかるとは。 ゴラァ秀!!!! 仕事人の冷静な判断を欠くほど恋に狂ってたのかよ!? しかもまだ告ってもいないのにという二重の衝(笑)撃! 愛に飢えたピーターパン園児は、ウェンディせんせいに心だけでなく頭もコントロールされてしまったようですね。 背に腹は代えられないお絹さんにも同情を禁じ得ませんが・・・。
八も秀がお絹にホの字の噂は知ってたからこそ、 万が一の用心を怠らずにいたんでしょうね。いつなんどき、あの純情バ●が凸してくるか分からん・・・とね。 お絹が実際に八を狙うという行動を起こしたからには、 彼女がいつ返り討ちにされるか分からないので、焦りのあまり暴走する秀の気持ちも分からんでもないですが。


すんでで邪魔が入り、目的を果たせなかった秀、 手首を捕らえられたまま悔し気に振り向くと、三の糸を掴んでグッと引っ張ります。まだ殺る気でいたらしい。 即座に簪で糸を断ち切るかと思いきや、そうはしなかった秀・・・急にどうした?(ドキドキ)
そんな秀を目を細めて見据えていた勇次の表情がやや緩み、 低いが少し和らいだ声で、最強必殺の殺し文句キメてきました!!!

「オレが邪魔に入ったんで、ホッとしたろ」

。。。。。昇…天。。。。。。。。。 ホッとした、とは秀の暴挙の裏に隠された迷いを見事に言い当てた言葉。 秀の葛藤を充分に分かってるからこそ言えたセリフではないですか?(嗚咽)
秀がお絹と清太郎のために色々尽くしている様子を、勇次は時々のぞき見したり加代からの話で知っていたはず。 三味線屋宅に秀が八を仕事にかける相談に来た時点で、 牽制しただけではもう秀を止められないと腹をくくったんでしょうね。
その後、気づかれないように秀の行動を監視。 秀が八を襲いそうなタイミング・・・我が家に帰り着きふと気が緩んだ瞬間を狙う可能性が高いと予測して、 前もって八の役宅周辺に張り込んでいたと。
一途さゆえの秀の暴走にも理解を示しつつ、いざという時には止められるよう身を挺してのスタンバイ。 仲間内の微妙な人間関係をも俯瞰したうえでの先回り行動。 クールガイの本領発揮と言わずして何と言いましょうや!
ところで見透かされてた秀も、勇次を睨んだだけで食ってかからない辺りが、嘘のつけない天使らしいですね! 八と刺し違える覚悟でいった筈ですが、睨みあった瞬間に見せた表情が示すように、 迷いを振り切れないままで凶行に及んだのを勇次に阻止されて、 悔しいながらも心の奥底では救われてたと思いました。


今作の三味線屋さんは優男の顔を完全封印し、 一貫して仲間内のための暗躍行動をしかも単独でとる騎士(ナイト)役に徹していましたね。 ああ〜〜もう確実に二人の心の距離が近づいてる〜!というより絡み合い始めてるよおお。最高すぎて笑うしかねぇ―――ww
公式様、この先どれだけ我々を煽り散らかしてくれるんでしょうか。 初の仕事人三つ巴攻防シーンに加え、 秀への思いやりがストレートに伝わるキメ台詞および勇さんの本気の口説き顔(?)に大興奮が止まらず、 くどくどと書き連ねてしまいました。
次はラストです!


続く



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