長屋の室内シーンが色々出てきたので、本題に入る前にちょいと秀のお宅拝見から参りたいと思います。
まず、どの店子の部屋にも内障子があること自体、裏長屋とはいえそこそこちゃんとした物件ではないでしょうか。
土間を入ってすぐの居間の奥にもうひと間。そのうえ秀んちはロフト付きで、一人暮らしには充分な広さです。 これは(泊れる・・・)と思われても仕方ないよね。←
せっかく密室にも出来る内障子をいつも開けっ広げな秀宅(そんなだから鯉の頭を投げ込まれたりすんだよ)とは異なり、 加代宅は半分閉めてさらに屏風を立てまわし、女らしい落ち着いたしつらえ。 壁際には結構な大きさの箪笥があって、 何でも屋の仕事がないと常々愚痴ってるわりに、本気で困窮してるわけでもなさそう。 勇さんにふるまう茶器セットといい、地に足の着いた暮らしぶりが伺えます。 加代のことだから小金をしっかり貯めこんでて、ここぞという時に上手に使ってるんでしょうか。 その計画的な金銭感覚、売れっ子のくせにたまに飯抜きになる隣人にも指導して欲しい。
まぁ妖精の家は、あのくらい潔くこざっぱりしたところがまたいいんですが。 特に秀らしいなと注目したのは、火鉢。加代の火鉢は歌が書かれた和紙を張ったような洒落たもの。 一方の秀は、ハイ!切り株!!www
分厚い切り株をどっかから貰うかしてきて、自分で中をくり抜いたとしか思えんのです。 藁灰を敷き詰めて五徳を置いたら、ほーら大きくて立派な火鉢の一丁上がり! ほぼ無料! 金を作るより物を作るのが得意な秀のアイデアだとしたら微笑ましいですね。 長屋シーンは、秀の火鉢活用法も見どころのひとつ。 今作では竹とんぼのために削った竹を楽しげに炙っています。
だがしかし。微笑ましいピーターパンの幸せな時間は、またしても長くは続かないのでした・・・(´Д⊂グスン


「おめぇだって忘れたくても忘れることは出来めぇ。あれは六年前ぇだったな―――」
お絹を手ごめにした後、裏社会から足ぬけする代償として、八丁堀同心・中村主水の殺害を迫る、 上総屋こと暗闇の利平。そこからはお絹自身の回想シーンになります。
回想の中、お絹は夜の路上に倒れています。その喉元は真横に斬られた刀傷を負い、血にまみれ苦しみもがきつつも、 声を出すことは出来ません。
そこに一人の同心が近づいてきました。 同心はお絹の傍らに落ちていた抜き身の刀を拾い上げます。 そのときに、お絹は刃を下げたまま黙って見下ろしている男の顔を見たのでした。
「おめぇだって憎いだろう。仇が討ちてぇだろう。おめぇの可愛い声を奪った男だもんな。俺だって悔しいぜ―――」
先日の夜に見たあの馬面と過去のことを思い出しているお絹の耳元で、利平がくどくどと口説きます。 元々浪人暮らしだった父親を亡くして路頭に迷っていたお絹を、十六で引き取ったのは利平でした。 自分の手で女にして、同時に盗人仕事の引き込み役になるように仕込んだというわけですな。さらには簪の使い方も。
利平のむかし語りがウザ長いんですが、要するに六年前、とあるお店のおつとめをした際に御用となって、 利平自身はその後百日の牢送りになったと。 捕まったのにたった百日で釈放?盗人は獄門台と決まっているはずなのに何故?
その疑問はひとまず置いといて、お絹はその時に中村主水に喉を斬られたってことになってるらしい。 回想シーンでは、斬られた後の現場にやって来ただけに見えるんですけど・・・。 しかし少なくともお絹の記憶の中では、最後に見た光景が抜き身を手に見下ろす主水の姿なので、 斬った犯人と思われても仕方ないですが。
「俺はずっと待ってたんだぜ。―――フッ、まあ、過ぎたことはどうでもいいやな。だがな、これはおめぇの仕返しだ。 いいな、必ず主水を殺るんだ。今の幸せを守りたかったらな・・・」
利平が牢に入ってる間にお絹はどこかに消えてしまい、以来行方を捜していたんですね。 その間にお絹は利平の子を生み女手一つで育てていた。 利平は過去を切り離したいお絹にしつこく主水への恨みを再燃させようとするだけでなく、 さらに駄目押しの脅迫までしてきたのです。
「清太郎とかいったな、息子は。五つといや可愛い盛りだ・・・。手を出すも出さねぇもおめぇの胸ひとつ。 親父の俺がてめぇのガキにどうしようと―――勝手だもんなぁ」
こ、このやろぉぉ・・・、骨の髄まで腐ってやがる。清太郎は憎い男の種というのがよけいにむごい。 しかもその子の命を盾に、お絹に侍の始末を背負わせるとは。どこまで女から幸せを搾り取れば気が済むのか。
哀れお絹は、逃げ出さないよう手下の丑松に背後から見張られながら、絶望の足取りで長屋へと帰るのでした。


戻って来たお絹の元に、秀が預かっていた子どもを連れて来ます。外出中の子守りは自らかって出てるんでしょう。 保育士さんにもなるかざり職人。
日ごろ仲間たちに同じことされてるせいか、挨拶の声もかけずにいきなり女の家の表戸を開けました(オイ)。 そこには男がいて、上がり框に腰かけているところにバッタリご対面。 しかし先客に会釈はおろか完全スルーのまま、お絹に声をかける秀!
「どうかしたのか、お絹さん?」
もしかしてお絹さんのいい人では・・・という発想は頭からないようですね(汗)。 言い寄る野郎は俺がおっぱらってやる、と頼まれる前から圧をかけている。 さ、この辺りから秀の暴走スイッチ入りました〜!
秀に訊ねられるもお絹は何も答えられず、受け取った清太郎を抱き締めてフルフルと首を横に振るばかり。 若い男の放つあからさまな敵意に、客の方がしおらしげに秀に向き直って場をとりなしてきました。
「まぁ、聞いてやって下さい。可哀そうにお絹さん、憎い仇をやっと見つけたのに、どうすることも出来ないんですよ!」
その言葉に思わずつられた秀、後ろ手に表戸を閉めて話を聞く姿勢。
「あんたは?」
「へぇ、遠縁の者です。(鼻を啜りつつ)あっしに腕がありさえすれば・・・(ため息)、 お絹さん、他に頼れる人が誰もいねぇんです。どうか力になってやって下さい!」
この若造がお絹にホの字だってことを悪党も一目で見抜いて、利用しようと迫真の演技をみせます。 それにまんまと引っかかる仕事人、ちょろすぎ。やはり恋は盲目か。
「な?お絹さん。おめぇさんからもお願いしねぇか!」
丑松に急かされ、お絹は子を遊ばせていた奥の間から出てくると、秀の前に深々と頭を下げました。 難しい顔で腕組みしてそれを見下ろす秀。 なにかの事情を隠していると察しながらも訊けなかったお絹の窮状を知り、冷静な声で男に訊ねます。
「―――それで。その憎いヤツってのは?」
「へぇ。八丁堀の、中村主水というお役人です」

ガァ――――ン・・・・・

「・・・・・なかむらもんど・・・?」
「気の毒にお絹さん、手ごめにされた上、口封じに喉を斬られて―――、ご覧のとおり声を失くしちまったんですよ」
丑松の訴えを否定せず、目を逸らしてその場に座っているお絹。 そこで秀はしゃがんでお絹の顔を下から覗き込み、彼女にそれが真実かと確認します。
「お絹さん?今の話は本当か?本当に、中村主水が、あんたの声を?」
固い声で問いただす秀の心境やいかに。間違いであって欲しいと願うも、ここまではっきりと名前が出るってことは・・・。
しばらくして、お絹は秀を見つめてしっかりと頷きました。 無言で立ち上がる秀。見開かれたその視線の先には、竹とんぼで無心に遊ぶ清太郎の姿がありました。


場面変わり、いつもの体育座りの秀の真正面アップから。憤怒ののあまり青ざめた顔で、
「許せねぇ」
カメラが遠のくと、奥の間に勇次と加代が卓を囲んでます。炬燵まであるってことはここは勇さんちですね! いざという時は自分で三味線屋を訪ねる秀の無自覚さ、もち勇さん分かってる(グフ)。 お絹さんちでの経緯をふたりに報告した後の秀の呟きですが、 今にも何をしでかすか分からないデンジャラス妖精を、加代がなだめます。
「ちょっと待ちなよぉ。いくら何でもそんな・・・」
「いや(秒で打ち消し)。あいつもただの薄汚ねぇ男だったってことだよ」
自分の得になることしかしねぇと八丁堀の自己中ぶりと保身に強く反発してきた秀ですが、 まさか自分たちが裏の仕事で始末する連中と同じような卑劣漢のクズだったとは。 丑松の話に加えてお絹本人による言質を取った秀は、ブチギレ状態で八を非難します。 秀の決めつけに、加代がちらっと勇次を見やるも、勇次は無言で目線を落としたまま。 そんな仲間の鈍い反応に業を煮やし、
「おめぇたちが手伝ってくれねぇって言うんなら、単独(ひとり)でもやる!」
言い終わらないうちにパッと立ち上がりました。
「ちょっと!ちょっとちょっと秀さん!!」
慌てて飛びつく加代。そこでついに鋭い鶴の一声が!
「落ち着けよ、秀」
「まぁ座って」
加代に無理やり袖を引っ張られて腰を降ろす秀に、巻き舌でピシリと叱責の糸を投げる三味線屋の兄貴です!
「そうすぐカッカするのはおめぇの悪い癖だ!」
悪い癖だってよ!ぐわぁぁぁ〜〜もう行動も性格も把握済みなんてよぉぉぉ(脳内花畑)。 秀も秀で反論せずふくれっ面、なんなんだよこのいつの間にかの強バディ感は!! いつもしつけ役は八に任せていたが、ここぞとばかりに愛の鞭をふるう勇さんの思いやりが、 この後の対話からもよぉーく分かります。 加代もいい合いの手役に回っており、ここらの掛け合いほんとに尊い!
「だっておめぇ―――、お絹さんの一方的な話だけで、八丁堀に確かめてねぇんだろ?」
「そうだよぉ。これにはわけがあるんだよ。八丁堀の言い分も聞いてみなきゃ」
明るい声でとりなすような加代の言い方。ガンガン怒ると逆張りする天邪鬼の取り扱いをよく心得てますね。 最初から気づかわし気な表情だった勇次が、ちょっと勢いの殺がれた秀に続けて語りかけます。
「考えてもみろよ。おめぇ一人のことだけじゃすまねぇんだぜ?―――オレたちの首も獄門台に並ぶことになるんだ」
「―――なぁ。八丁堀の本音が分からねぇんだよ」
反発するかと思いきやぽつりと漏らす秀。 その暗い声音のなかに信じたくないという心の葛藤を読み取り、答えない勇次。 代わりに加代がポンと秀の腕に手をかけフォローしてやります。
「まぁ、そりゃそうだけどね」
「心配すんな。―――やりゃしねぇよ!」
プイと飛び出して行く秀。 捨て台詞はさっきの勇次に対する面当てのようですが、もうっ、やっぱ全然頭冷えてねーじゃん。
「秀さん!」
呼びとめる加代の背後から視線を逸らして、小さくため息。この憂い顔! 仲間内では勇次が最も八丁堀を嫌ってると思いますが(笑)、 八にかけられた疑いの真偽を脇に置いても、 秀が八には叶わない(殺せない)と見抜いているんでしょう。
何だかんだ言いつつ八を精神的に頼りにしてただけにショックも深いからこそ、 独りにしたら何をどう思いつめるか分かったもんじゃない。そんな思いのこもった憂い顔だったのでは?
秀の複雑な心情をこんなにも察してくれる存在がここにいるというのに、残念ながら妖精はまるで気づかず。


場面変わり、いきなり秀の足の裏のどアップ(笑)。 どうやら二階でふて寝してるらしい。加代になだめられ三味線野郎に論破され、じつに面白くない。
おもむろにガバッと起き上がり、胡坐をかいて背中を丸めます。暗がりの中で秀の心の呟き。
(てめぇさえよけりゃ、ひとはどうなってもいいってのか・・・)
完全にすわった目つきで髪をかき上げ、なおも続く妄想のモノローグ。
(八丁堀の生きざまなんだ―――)
だめだこりゃ。独りきりになり考えるほどに、日頃の八丁堀の言動や行いが、 お絹に遭わせた非道を裏打ちしてるとしか思えなくなったようで。やれやれ。
今までの八自身の行いによる自業自得と言えばそれまでですが、生きざまとまで断定されるのはちと気の毒。 こないだまで、出張に行くと聞いただけで拗ねてた小僧っ子だったのによ。
激しすぎる思い込みは恋のせいとは言え、 それだけ八を心の奥底では信頼していたことの表れですよね。 そして勝手に傷ついたハートから血のように滲み出た悲しみは、憎しみの炎の着火材となり一気に燃え上がる!(誇大妄想) かなり踏み込んだ勇秀だけでなく、濃厚な主水秀?まで味わえるとは(パァア…)。
公式様、一粒で二度美味しいシチュ投下をありがとうございました!!


続く



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