さぁてぇへんだ!
顔なじみの芸者から『彼氏になってくれる?』と囁かれ、あっさり誘いに乗ってしまった色男。 店外で人気キャバ嬢とばったり、プライベートな甘い言葉をかけられてさしものクールガイも隙を突かれたか。
これまでたびたび見せてきた、被害者女性との淡い恋の情緒を打ち崩すかのような、うっっすい恋の行方は如何に!? そして我らが妖精は、この事態にどんな反応を見せるのでしょうか・・・
今回の感想は、中編というよりも"秀宅"編です。


*************************************


いつもの薄暗く殺風景な長屋の一階。何やら若い男たちの揉める声が聞こえてきます。
「だから俺は正月で手一杯なんだよ!」
夜遅く押しかけた客に背を向けて迷惑そうに繰り返す、なにげに売れっ子の錺職人。 どいつもこいつも家主の都合はまったく考えてやしねぇ。 ここは寄る辺ない仕事人たちの、心のプラットホームなんでしょうか。 こんな可愛い駅員さんが駐在してるなら、用事をこじつけてでも寄りたい気持ちは分かります。
簪の注文をごり押しでお願いに来た三味線屋。付き合うことになったばかりの女にいいカッコするのに、迷わず秀を頼るとは。 むしろ秀には自慢したい、知って欲しい気満々!? 八丁堀や加代には絶対しない行動ですよね。 秀にすげなく断られても食い下がります。
「だからそんなこた承知で言ってる。一分なら二分、二分なら一両出してもいい!」
はぁ、浮かれちゃってさぁ。クールガイも形無しです(イラッ)。 見ようによっては、むしろオープンに恋を楽しむってところが『色は遊び』がモットーの勇次ならではとも言えますか。
で、この際ちょっと調べてみました。【キャバ嬢と付き合う方法】について(笑)。 するとまさに勇次の言動を裏打ちする神回答が、キーワード検索のトップに出てきました。 江戸も現代も変わらないその条件とは!
『本気でキャバ嬢と付き合うのであれば、まずは他のお客さんよりも一歩前に出なくてはいけません。 そのためにはお金を一気に使うことです』(抜粋)
シンプルでいっそ爽快な金言ですね、お金なだけに(笑)。 勇次ほどのイケメンでも、まずは金に物を言わせねばならんというシビアな世界。 が、遊び人のそんな下心も知らず熱意にほだされた秀は、いきなりド直球の質問を振ってきました。
「おめぇ、女に惚れたのか?」
あわわ・・・(;・∀・)そこで言葉に詰まる勇次の正直さよ。 ピュア妖精の認識では『簪を女に贈る』=『ガチ惚れ』を意味するのであります。
「―――・・・(えっと、惚れたってゆうかぁ)」
沈黙の意味を良い方に解釈した秀、楽し気に続けます。
「八丁堀に居て欲しかったなあ。おめぇが女に惚れたって聞いたら―――」
「(慌てて打ち消し)そんなバカなこと言ってねぇでよ!なっ?なんとか頼むよ秀」
すばやく秀の背後にすり寄りしゃがんで肩ポン。バカなことと本音を露呈しつつも適当にお茶を濁そうとする勇次。 ところがそのごまかしが天然っ子には通用せず。半笑いした秀、なんと自ら爆弾投下!
「他ならねぇおめぇの恋だ(男前な声)。相手はしろうとじゃねぇだろ。芸者か?(お見通し)」
ひぇぇ!遊び人を嫌ってたくせに、今や勇次のありのままを肯定するようなこの発言! 前作ではまだ「三味線屋」と呼ばわっていたのに、この急速な距離の縮まり方はどうなのか?
嫌味のない瞳でまっすぐに見つめられ、ついに勇次の方がいたたまれず首の辺りを掻き掻き(汗)。 その反応に、図星さされて照れてると思ったのか、秀は肩越しにひょいと何かを勇次に差し出しつつ歌うように言うのです。
「どっかに"勇次まいる"って彫ってやろうか?」
ニャー(≧▽≦)!さんざんからかっておいて、おニュー簪を手渡しとは!!な、なんつー男前(号泣)!!! このサプライズに勇次は驚き、さすがの逸品に目を輝かせて大喜び。勇次が天然小悪魔に転がされておる・・・。
「おっ!?こいつはおめぇの仕事だぜオイ!気に入ったぜ!」
ちゃんと秀の細工のすばらしさを理解してる自然な言葉が良いですね。
「そんなことはどーでもいいけどよっ、銭の方はいつ払ってくれんだ?」
ここまで粋な計らいをしていながら、手放しで誉められて急に恥ずかしくなったのか、 勇次の方に自ら向き直り現実的なことをわざと言い出しました。 くぅぅ、どこまで天使(いや悪魔?)なんだよぉぉぉ、いまだ押し倒せ!!
「そう固ぇこと言うなよ。何回かに分けて払うよ」←何度も訪ねてくるための理由づけ
「即金じゃなきゃダメだ」←今さらのイジワル
もう、もうね、過呼吸発作を起こしながらここリピしちゃった・・・。どうでもいいモダモダ会話がかわゆすぎる二人。 勇次にとって、八丁堀という目の上のたんこぶが居ない今だからこそ、 遠慮なく秀んちに押しかけられるしリラックスして長居出来るんですね。ええ、それはもう狙ってたかのように。 主水に仕事を振った田中様、スーパーGJ!


はあ、今作は本筋外の話の比重が大きすぎてまとめるのが難しい。嬉しいけど(^^;)
さて、武装解除した秀とイチャイチャしてる最中、ふいに何か異質な気配を感じる三味線屋。 サッと目を見かわすと同時に左右に飛んで戸口から離れるさすがの仕事人。 が、引き手の穴から覗いていたギョロ目は加代でした。 「おなかすいたでしょ」と遠慮なしに入ってきます(チッ)。
「ごちそう持って来たわよ、食べる?」
風呂敷を掲げてみせて、勇次がここに居ることがごく普通みたいな対応に和みます。
ごちそうと聞いて、ヒラッとちゃぶ台を飛び越えて真ん中に猫が降り立ちました。 物も言わずに勝手に風呂敷を解く傍らに、腰を下ろす勇次。 パカッと蓋を開けるなり勇次を見て「おい!」嬉しそうに言うと、顔を近づけて匂いをまず確認するニャンコ姫。 なんだこの生き物!
勇次(せっかくのいい雰囲気を邪魔されちまったが、こんな可愛いとこ見られたんならまぁいいか・・・)
「おい加代、ところでおめぇの仕事の方はどうなった?」
機嫌よく加代に話題を振ってやります(笑)。って、ちょっと待った。 てことは、出かけの八丁堀の脅しを秀がちゃんと伝えに行って、 ついでに加代のバイトの件も話してたってことだよね!言いつけ守る秀も律儀だが、 いそいそやって来る勇次って野郎も・・・。
加代はよくぞ聞いてくれたとばかり、仕事の愚痴をぶちまけ始めました。 病人のシモの世話の大変さを体で実況する加代の白いふくらはぎやら赤い腰巻も丸見えですが、 そんなもの(←)にまるで気も留めず、ごちそうに集中する野郎共。 しかも「なんだこりゃ、残りもんじゃねぇか?」と文句までいう勇次。
加代が即座に言い返します。 お金は潤沢にある恩地家では、毎日贅沢な料理を頼むのです。これも江戸一有名な料亭・八百善のもので、 しかしほんの少ししか手を付けないので残りを貰って帰るのだ、と。
「ほんとかよ」
簪も手に入り秀と二人きりで過ごせたせいか、ご機嫌な勇次がムダにいじってきますが、加代は珍しく奉公先に同情的。
「まーね。寝たきり病人だから食べる以外に楽しみないんだから仕方ないんだけどさ」
勇次と頭を突き合わすように箸を付けながら、秀が何気なく言いました。
「同じ同心で婿養子なのに、八丁堀とは天と地の差じゃねぇか」
こんな時にもどこかで八丁堀を思い出すとは(きゅん)。加代が痛む足をさすりつつしみじみと応じます。
「そりゃ、同じ望まれるなら恩地さんの方がいいよ・・・」
と、そこで突如として投下される秀の第二の爆弾発言により、和んだ場の雰囲気が一転するのであります! いまの加代の言葉を受けて、独り言のようにポロッと、
「同じ惚れられるんなら、勇さんの方がいいか・・・」

シ―――ン(一瞬の空白)

八丁堀を思い出してたかと思えば、目の前の色悪のことを考えてたとは。 この天然小悪魔ぶりには勇次でなくとも息が止まりました。 勇次の中ではもう解決済みの話を、よりによって加代の前にて蒸し返すナチュラルボーン妖精!罪深すぎる。 慌ててパシッと秀を叩いて合図する勇次を「ん?」と無邪気に見返す上目遣いよ・・・。
「―――ちょっと。ちょっと勇さん。いい女(ひと)が出来たの?」
真顔で詰め寄る加代。まだ諦めてなかったのか?いや気持ちは分かる! 決まった女がおらずちゃらちゃらしてるんなら、自分に脈無しでも許せるけどな。 フェロモン男は誰のものにもなっちゃいけないんですよ、ね。男なら許すけど。←
それにしても秀、ネタバレするのも早すぎるぞ。不思議ちゃんの思考回路ってよく分かりませんが、 自ら恋を応援するように簪まで譲ってやったのに、あまりに調子に乗ってる勇次を見てたら、 ちょっとイジワルしたくなったとか? 勇次の女絡みに関して加代が聞き流すはずがないと見越しての、狙った一言としか思えませんね〜!
ただしこれが無自覚のヤキモチである、と天使が気が付くはずもなし。 前触れなくネタバレされちゃった遊び人、
「え?勇さんどこの女?好きになったのっ?」
加代にずいずいと迫られてタジタジ、
「おい秀・・・」
と助けを求めるも、小悪魔天使は揉みあう二人の間から重箱だけ抱えて逃げ出し、 無情にも勇次に背を向けごちそうを独り占めするのでした(≧▽≦)


ああ〜この一幕めちゃくちゃ楽しかったなぁ。 本筋の展開は加代の奉公先の事情が軽く分かったのみで進んでませんが、 簪の件は裏仕事抜きの話なだけに、ふたりが気安くポンポン言い合ってる感じが楽し気でキュンキュンしました。
何がなんでも勇次の恋を納得ゆくように解釈したいという執念と歪んだ視点がこの後もこれでもかと続きますが、 良かったらお付き合い下さい。

〈続〉



★ 妄言ノ間「目次」に戻る


★ homeに戻る