蕎麦屋エピソードが良すぎた・・・。 勇次と絡めずにはいられねえ!またしても天使の秀が大渋滞っすよ!! ということで、妄想創作からスタートでっす。 *************************************** 通りすがり、格子ごしにこそっと様子を伺うだけのはずが、当の本人が店の外に出て打ち水をしていたのは誤算だった。 踵を返す前にめざとく気が付かれ、「よう」と先に声まで掛けられたら、今さら引っ込みがつかない。 水を撒く姿さえ腹が立つほど絵になる三味線屋に、秀は気のない顔つきで腕組みしたままぶらぶら近づいていった。 「ここまで覗きに来といて素通りはねぇだろ」 「は?勘違いすんな。たまたま歩いてただけだ」 真っ向から否定しても、全然信じてない目つきがかんに触る。 八丁堀から珍しく正論で諭されると、鉄拳制裁よりも胸にこたえることは、秀自身が仕事人の誰よりもよく知っている。 神妙なツラでしばらくは大人しく表稼業に勤しむ姿を、遠目に確かめるだけのつもりだったのに。 大木戸破りして江戸市中に潜んでいた凶状持ちの女を、 ある晩勇次が町方の追っ手から逃してやったのが、一連の出来事の発端だった。 障な酔狂がとんでもねぇ厄難をしょい込むとこだったと、 裏の仕事で片を付けた後からも八丁堀にネチネチと責められる羽目になったのは、まあ自業自得だろう。 が、一本気な壺振り師・お銀の舞い戻った理由が、 江戸払いになった際連れて行けなかった愛娘に会うためと知って助け船を出した勇次の心情にまでは、 秀は八丁堀ほど否定的な気持ちにはなれなかった。 あいつは軽はずみなんだよ、と加代の前では毒を吐いたものの。 「兄さん。人を助けるなら、とことん面倒みておくれ」 そんな啖呵をきったお銀を、自宅でなく無理やり加代の元に預けた勇次の真意。 おりくさんに気を遣ったんだろうねと、当のとばっちりを受けた加代のほうが先回りして察していた。 養い子の勇次が、実の母子に肩入れする。 おりくがそれをどう思うかという前に、息子の勇次の方で今回の件に母を巻き込むまいとしたのだ。 それを聞かされて、秀のなかの余計なことに手を出した裏の仲間に対する怒りが、最初の勢いを失ってしまった。 認めたくはないが、三味線屋親子の関係を知った後では、 育ての母を思いやる勇次の細やかな優しさと語らずとも伝わる二人の絆に、ひそかな羨望を感じずにいられない。 独りで結構と開き直って生きてきた自分が、そんな感情に揺さぶられていることにも苛立ちつつ、 血は繋がりながら複雑な愛憎を抱えた母と子の仲を、あいつがどう取り持つつもりかと気になった。 しかもお銀が人を刺した罪を被ってやったやくざ・勘助に預けていた娘のおこうは、 十九歳にして勘助の愛人となっていたのだ。 こともあろうに、自分と愛人関係であった男が娘にまで手を出していた事実を目の当たりにし、お銀は激昂して二人を責めた。 堕落し切ったおこうは、突然の母の登場をかえって迷惑がっている。 だがお銀はどうあってもおこうを勘助の元から引き離し、 母子ふたりでまともな人生を生きるために江戸を出ようと、渋る娘を掻き口説く。 外道に堕ちた勘助に身も心も穢されたおこうに、母の必死の想いがどこまで伝わっていたのかは定かでないが・・・。 加代の家に匿っていたお銀の存在が八丁堀にばれ、 捕らえようとした同心を町人の勇次が止めに入ったことから、 自分たちの関係を怪しまれて、仕事人の素性まで嗅ぎ付けられてしまった。 秘密を知られたら消すという掟にしたがう代わりに、お銀が勘助と対峙するまでは猶予をくれと、 勇次はその時ばかりは真摯に八丁堀に対して頭を下げた。 仲間たちまで身の危険にさらすことになった責任を、さすがに重く受け止めたことだろう。 その上、助けるつもりだった女を自分の手で消すことでしか、この落とし前をつける解決策はないのだから。 「オレ達は人を助けるには汚れすぎてる」 その一言を三味線屋に向けて放った八丁堀に、その場でもし同意を求められたら、どう答えて良いか秀には分からなかった。 わが子を守るため命をかけて勘助を殺し、罪を重ねることも辞さぬ覚悟のお銀を前にして切り捨てられるかというと、 自分もいざ勇次の立場になれば正直自信はない。 だから、抗弁せず伏し目で八丁堀の叱責を受ける勇次の横顔を、離れたところでただ見つめていた。 結局は勇次が手を下す前に、娘の裏切りという最悪の筋書きでお銀は非業の死を遂げた。 図らずもおこうへの償いのために貯め込んだ金が、お銀の最期を看取った勇次を通して仕事料として分配されることになった。 実の親子が添い遂げられるよう陰ながら尽力しようと単身で動き回った勇次が、 一緒に暮らす母にはこの事実を知られまいと愚直に立ち回っていた結果がこれかと考えると、 八丁堀の言ったとおり、どんなに同情しても自分たちのような闇に生きる者が、 その人間を真に助けることは決して出来ないのだろう。 大木戸破りの罪人のなれの果てとして、お銀の遺体が町方側で無造作に処理されて数日が過ぎた今日。 勘助らを仕事にかけた際、ひとり生き残されたおこうが、色街からの使いらしき男に連れられてゆくところを見かけた。 己が残酷に裏切った母も、頼みの愛人も死んでしまった。血の海に沈む勘助に縋りついて独りにしないでよぉと泣き喚く声は、 まだ幼ささえ残る少女のそれだった。 何も映していない瞳を虚空に放ち、魂の抜けた人形のように手を引かれてゆく若い女の後姿を見送りつつ、 (助けたところで救われねぇ) ひとり胸のなかで呟いた。 頭を一度大きく振りかぶって、その足がついつい向いたのが三味線屋の方角だったのだ。 「―――おめぇの心配なんか誰もしてねぇよ。それよりおりくさんの風邪は?元気になったのか?」 おこうを記憶の外に追いやり、とっさに思いついて引き合いに出すと、 勇次もむしろ母に話題が逸れてホッとした様子で眉を開いた。 「ああ。今朝になってもうすっかり良くなったと言い張ってな。止めるのも聞かずにとっとと稽古に出かけたよ」 「相変わらずだな」 気丈ぶりを呆れてみせる秀に、苦笑交じりに頷きながら、柄杓を手桶に戻して勇次が言った。 「だからもういつでも出られるんだ。―――どうだ、今夜」 言うと思った。雑踏に紛れた秀をめざとく見つけ、ふたりの視線がかち合った時点で、 勇次にしてはちょっと照れたように切れ長の目元を細めたから。 ここのところ互いに忙しく、飲む機会が絶えてなかったのだ。 しかしすぐに応じるのはこっちも待ち構えていたみたいで、あまのじゃくな秀の流儀に反する。 「急に言われてもな」 頬の緩みをごまかそうと、唇を尖らせてプイと横を向いた。 「なんか用事でもあるのか?」 「べつに」 「そんならいいじゃねぇか。金欠ならおごるぜ」 「―――そういう問題じゃねぇよ」 「じゃ、どういう問題だ?」 畳み掛ける声は早くも笑いをこらえていて、 意地を張ったことでかえって墓穴を掘ってしまったと秀もようやく気付くがもう遅い。 「ど・・・どうゆうって、だいたいダチでもねぇのに誘うなんて変だろ」 ちらっとだけ睨んで口走る。何を言われたのかとポカンとしている顔をみて焦る。 そうだ、こいつはあくまでも後ろ暗い仲間のひとり。心を許してはいけない相手なのだ。 突然突き付けられた今さらすぎる疑問に、色男が白けた声で言った。 「今までだってダチじゃなくてもつき合ってたじゃねぇか。そんなに変なことか?」 てっきり皮肉な笑いにすり替えてくれるだろうと思っていた。 流さずにあべこべに訊き返され、秀がグッと詰まってしまった時。 「あんちゃん!!!」 悲鳴のような子供の声が背後からかかりビクッと飛び上がった秀の腰辺りに、誰かがぶつかるように抱きついて来た。 「え?」 驚いて反射的に身を捩じり、組み付かれる寸前にその小さな体をもぎ放す。 折れそうな両腕をつかんで、その茶色く薄汚れた顔を見降ろした秀も、アッと声をあげていた。 「おめぇ?あん時の―――」 臭ってきそうな単衣に身を包んだ少年は、秀が覚えていたことが分かると、欠けた歯を剥き出しにして満面の笑顔になった。 秀は勇次のことも忘れて、膝をつき少年と目線を合わせてさっそく訊ねた。 「そんで、おっかさんの具合はどうなった?」 少年が細い首をこくこくと前後に振って、恩人の質問に応えようとする。 「だ――だいじょうぶ。あんちゃんに貰ったお金でちゃんと薬も買えたしお米も買えたから、 かあちゃんにおいらが食べさせたんだよ」 今度は秀が満面の笑みを浮かべる番だった。 「そうか!よかったなぁ。おめぇも辛ぇのによくひとりで頑張ったな、えらいぞ」 手放しで誉められて、少年が嬉しがって身を捩る。弾んだ声で感極まりながら、秀に報告を続けた。 「かあちゃん、また仕立ての仕事ができるようになったから、 お前に二度とひもじい思いはさせないよっておいらに約束してくれたんだ」 「・・・そうか。おめぇのかあちゃん、強いひとなんだな」 一方、秀と少年のやりとりを黙って傍らで聞いていた勇次にも、事の仔細が何となく掴めてきた。 どうやら少年は、蕎麦屋の店先で盗み食いをしようとしたところを店の主に見つかったらしい。 そこに客として居合わせた秀が、激怒して少年を懲らしめようとする主を止めた。 それどころかコソ泥を呼び入れ、一緒に飯を食わせてやったのだ。 母が急な病に倒れかつかつの暮らしをしていた少年は、 飢えて食い物屋の店先を荒らすしかなかったのだろう。 蕎麦代に加え、秀が懐から出した有り金ぜんぶを少年に渡してやったと―――そういうことだ。 勇次はふと気が付く。 いつもその日暮らしで大抵金には縁がない様子でときどき質屋にも出入りしている秀に限って、 まとまった金をポンと払える機会と言えば、表の仕事でよほどいい買い手がついた時を除くと、 後は裏の仕事料しか考えられない。 先日お銀の一件で手渡した、一人あたり一両の金子のことが脳裏を掠めたのも、 ごく自然な理由からだった。 「じゃあな、坊主。元気でやりな」 「うん!」 「おっかさんを大事にしろよ」 「うん!あんちゃんもね!!」 振り向いて最後に叫んだ一言に、見送る秀の横顔が苦笑を浮かべたのを、静かな勇次のまなざしが捉えている。 「―――おう!そうするよ」 辻を曲がって姿が見えなくなるまで、秀は手を振り続けていた。 「さてと」 背を向けたまま突っ立っている仲間の肩に、勇次の手首が背後からやんわりとかかる。 「そんな施しをしたんじゃ、やっぱり金欠が問題なんじゃねぇか、秀」 「―――」 横に立った男をじろりと無言で見返したものの、秀は肩を軽く掴んだ温もりを振り払うことはしなかった。 「いいよいいよ。あの坊主の代わりにオレがおめぇに好きなだけおごってやるから」 「・・・ホントか?」 「ああホントさ。だからダチじゃなくても誘っていいよな?」 からかう口調で黒目がちの瞳を覗いて確かめた色男に、秀がふいに珍しくも笑い返した。 が、心やすい無邪気な笑顔から一転、ニヤリと人の悪い表情に変わると、 唄うような声で威勢よく言い放つのだった。 「おう。その言葉後悔すんなよ、三味線屋!」 ************************************* 本編をそれぞれの視点で語らせたら回りくどい話になりました(;・∀・)。書きたかったのは最後の場面です、ハイ。 さて、21話の見過ごせないチェックポイントを付け足しです。 ほとんど三味線屋さんの単独行動メイン回でしたが、最初に助けた理由をお銀に問われて、 「オレはゲジゲジと八丁堀が死ぬほど嫌いなんだ」 と答える気障男ぶりに倒れ伏しました。続く会話で勝負師のお銀に、気まぐれな親切を即座に見抜かれてしまってるし。 年の功と強気の女にいまいち弱い色男、可愛いくないですか?言い返せず律儀に助けるって、どんだけお人好しなんだよ! 秀と本質的には同類なんでしょうね。だから互いに気になり惹かれ合う、と。(強引にまとめ) お銀さんが勘助との取引に応じて一晩限りの賭場に立つ夜。黒留め袖の勝負服に着替えた姿が、 追い詰められて一人ムキになってる中年女から一変して見違えました。(失礼) 襟を抜いてる着こなしが渡世人ならでは。 プロの矜持を感じさせる表情や物腰といい、色気と凄味に溢れていました。かっこいい女優さんだ! さて、賭場で勘助のイカサマを暴き、その場で刺し殺して娘と共に逃げる計画のお銀。 そううまく事が運ぶかとの心配もあり、外から忍び込む勇次。 目打ちを使ってかんぬきを外すなど、手慣れた秘密兵器使いがにくいです。 同時に勇次には「秘密を知った者は消す」ミッションも課せられている。 この矛盾した動機を抱えて事の成り行きを見届けますが、勘助に寝返ったおこうによって計画は未然にバレてしまっていました。 母親にとっては娘でも、おこうは女として勘助のほうを取ったのでしょうが、やり方が酷い。 やっぱり一度は自分を捨てて去った(どんな理由があろうと)母に対する恨みが、 最後には勝ったのかと想像すると暗い気持ちになります。 血が繋がっている、しかも同性だけに尚のこと。さすがの勇さんにもそこまでの女心は見抜けなかった? いや逆にお銀の一人相撲と分かったからこそ、 母思いの勇次はますます見捨てられなくなったんじゃないか・・・と、 恋愛感情抜きでのストレートな献身ぶりにキュンとしながら観ていました。 お銀があべこべに勘助らに刺されてしまうシーン。 陰から見ていた勇次、即座に糸を放ち、賭場に灯してあった蝋燭の芯を次々に切り落とす!!!いったいどうやった!? 三味線屋の手にかかれば、三の糸は命を吹き込まれた式神のように自在に使役されるってことっすよね、公式様! 闇の混乱に乗じて瀕死のお銀を肩に担ぎ上げると、裏口に用意してあった逃亡用の小船にとっとと運んでゆく。 冷静にしてこの怪力ぶりにも萌えまくりです! この回、勇秀の直接の絡みがほぼない代わりに、 勇次の滅多矢鱈なイケメンさ(何をやっても思わず笑いが出るほどの)と、 骨太なパワー系一人働きを堪能できたので大満足でした。 一夜明け。お銀の死によって裏の仕事が確定。 仕事料の受け渡しが昼間に行われるって、結構レアなケースなのでは? 密談場所の中には入らず、外の格子ごしに話を聞く秀。 その際にも中の勇次の横顔をジッと見つめている瞳がアツすぎやしないか!!! おこうの処遇を話し合い殺さないと決まった後、金を受け取った秀がまず立ち去る。 「夜まですることないのよぉ」 突然八丁堀に甘えた声を出すも適当にいなされる加代が、次に勇次に放った一言に白目を剥きました、ストレート過ぎて。 「ねぇ…勇さん、あたしとイイコトしない?」 「冗談じゃねえ(超真顔)」 秒、いや光の速さで拒絶の色悪。しかも超不機嫌さを隠そうともせず。 重い雰囲気を変えようという加代のアドリブだったかも知れませんが、よく言ったなぁ。 この空気の読めなさには呆れを通り越して脱帽です! これで勇さんにまったく、まっっったく、むあっっっっったく女として興味持たれてないって、 20話超えてやっと加代にも理解出来・・・たらいいのだが。 勇次の心の叫び (バカやろー!秀に聞かれたらどうすんだ!!誤解されるだろうがっ!!!) 腐的解釈としては、一足先に秀が去っていて良かったと胸を撫で下ろしつつの、思わず本音が滲んだ塩対応だったと思われます。 チーン。 そして。今回話の大筋にあまり絡まなかった秀を見せるためだけに挿入したとしか思えない蕎麦屋のシーン!! もう創作にて勝手に拡大妄想したのでここでは割愛します。しかしこれだけは言おう! 「オレの目にはちゃあんとおめぇの背中の羽根が視えてるぜ・・・秀」 機嫌良く酔い潰した天使の耳元で、三味線屋さんがそっと甘く囁いてることでしょう。ぱたぱた。 ★ 妄言ノ間「目次」に戻る
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