出会茶屋の屋根裏に潜んで、人目をはばかる他人の情事を写生する実写型枕絵師・英泉。 『実録☆セレブ奥さまの昼下がり〜敏腕営業マンと生●メ隠し撮り』って感じで売り出すんでしょうか。 絵師の妄想を炸裂させた春画もいいけど、リアルな描写や生々しい会話に興奮する客もいたはずですね。 あるとき覗き見してた不倫現場で、英泉はたまたま大店の身代のっとり計画を耳にします。 その陰謀を若い愛人(どうやら義理の息子らしい)に持ち掛けている、 千住屋の後妻を強請って大金をせしめようと目論むが、あべこべに命を取られる羽目に。 「要らざる欲を抱くとろくなことにはならない」と冒頭の端唄の師匠の忠告を聞いてりゃよかったのにねぇ。 それにしても勇さん、絵師の人間性を一目で見抜いてそんな釘を刺せるとはさすがの眼力です。 と、ここでも茶屋のおかみ(元深川女郎)はクールなお師匠さんにうっとり見惚れているだけで、 「見てないで唄ってください」と師匠自らつっこむ始末。もうこのお約束何度見ても飽きませんわ〜。 南町奉行所には内山様に替わる新しい上司として、年若い田中様が着任。 最初はキリリとしたエリート幹部候補だったんですがねぇ・・・(以下省略)。 初手から厳しい田中様の命令により、夜勤で牢の見回りをする主水。 ここでのやり取りで、社会的弱者や罪を犯した者たちに対する主水の目線の低さや、 ずけずけ言いながらも人情味ある応酬がとても良かったです。 しかしその後の行き倒れた馬次郎を保護してからの展開では、見廻り同心として口はあれこれ出すけど銭はびた一文出す気はなし。 やっぱり八丁堀はそうでなくちゃ。 仙台藩から江戸に出て来て食い詰め、小犯罪を犯した馬次郎・楽太郎の素朴さにも泣けました。 会話の中で名前だけ出てくる同郷のお玉は、奉公先からある日突然いなくなって楽太郎も会えずじまい。 その後の話によると、奉公先の後妻と先妻の息子(冒頭のふたりです)の爛れた関係を知っていたらしいので、 口封じにどこかで殺されたというのが真相ではないかと。 夫婦になるつもりでいた楽太郎は逃げられたと思ってしょげていましたが、八丁堀の口添えで秀たちの長屋に入ってから、 病床の馬次郎に献身的に尽くすところや、隣人の秀や加代とすぐ仲良くなってる人の好さに救われます。 「秀さん。鳥がク●しねぇ」 「俺も分からねぇよ(困り顔)。鳥だってふんづまりになるんじゃねぇか?」 死んだ英泉の部屋に居抜きで入ったら絵師が飼っていた文鳥の籠が残されていたので、 そのまま何となく世話をしてる楽太郎と秀との会話が間が抜けてて、二人ともめちゃめちゃ可愛い!! 今回も秀がワイルドキュートな魅力を惜しみなく振り撒いておりますが、 井戸端で八丁堀の肩ペシッもさりげなく萌えたし、 床下に潜り込んで強まる死臭に顔をしかめながら埋められた死体を見つけたときの汗だくな感じ等、 長屋での生活シーンにリアリティがありました。 さて、毎度のことながら【最重要案件】である三味線屋さんとの絡み。 今回は加代が間で動くので接点がないか〜とほぼ期待もせずに観ていたのですが。んが!! 来た来た来たぁぁぁぁぁぁーーーー! 最後の最後、ガイシャも死に裏の条件が出そろい頼み料を配分する段になって、秀まさかの勇次に金の手渡し!! しかも片膝ついたままうつむき顏もみずに・・・とは、嗜好にぶっ刺さりました〜ワッホイ! 細い桟橋の上、揺れる水面と動かずうずくまる秀の姿の対比。 憎めない人柄の楽太郎に親しみを感じ始めてただけに、秀は悲しんでるんですね(たぶん)。 そんな秀の肩越しに掲げた指からスッと金を引き抜く勇次ですが、 『ちゃんと受け取ったぜ。おめぇのいまの気持ちも』と心の声が聞こえてきそうな、さりげない寄り添いかた。 こ、こ、これはどうみても公式様の粋な計らいというか、別にこれでなくてもいいはずなのに、 ファンサとしてふたりの接触シーンを“わざわざ”挿入したとしか思えないのですが・・・ですが・・・ですが・・・!!? このように回を追うごとにじわじわと、 心の距離だけじゃなく“体の距離”をも縮めてきているふたり(しかも秀からの歩みより)を、 しかとこの目で確かめた幻想的フィナーレでした!! 注※仕事はまだこれから 生きものが舞台回し役という珍しさ、江戸のペット事情が垣間見れたこと、 加えて猫を胸に抱いて診療所に来る勇次などの激レアシーンまで盛り込まれて、小ネタ満載の楽しい回でした。 沢山殺されたけどさ・・・。 結局飼い主がみんな死に、 残された文鳥のその後が気になったので、勇秀に絡めたオチをひねってみました。以下、創作です。 ********************************** 犬猫診療所で順番を待っていたら、意外なヤツと出くわした。 奥から出てきてすぐにオヤ?と動きを止めた相手のほうが、先に気を取り直して笑いかける。 条件反射のようにフンと秀はそっぽを向いた。 「異なところで会うな。おめぇが引き取ったのかい?」 傍らの文鳥の籠を見るなり尋ねてきた三味線屋の胸には、見覚えある猫が縋りついている。 「馬鹿いうな。そっちと違っててめぇの口養うだけで精いっぱいだよ」 後妻と先妻の息子による千住屋の身代のっとりの一件で、何者かによって二人が殺害されたことにより、 全財産は勘定奉行に没収となり店も潰れた。主人謀殺の裏をとるため女中として入り込んだ加代が、 後始末の為にまだ辞めさせて貰えないため、代わって秀が英泉の遺した文鳥の引き取り先を相談に来たのだった。 「・・・そうか。最後に残ったのはこいつだけか」 説明を聞いた勇次の優しいとも皮肉ともつかない呟きに、何も知らぬげな文鳥に秀も視線を落とす。 こいつは元の飼い主の死に始まって馬次郎の死の現場にも居合わせた、ただ一人いや一羽の生証人だ。 田舎者丸だしだが気のいい楽太郎も、巣箱の下に隠されていた証拠の絵を見つけたことであっけなく命を落とした。 悪人善人の別なく人間は欲に駆られて死を招き、人に飼われた無垢な畜生のみが生き残る。 仕事人の三味線屋親子が身近に猫を置いているのも、そんな人間たちの浅ましさを覚えておくためかも知れぬと、 甘える猫の喉をくすぐってやる勇次に目を戻してふと思った。 「いっそおめぇが貰ってくれたら助かるんだがな」 さっきああは言ったが、この稼業にいながら生きものを飼う覚悟は秀にはない。 が、せめてその後を見守れたらと勝手な考えが浮かんだ。 「おいおい。こいつの生餌で三日と生きちゃいねぇよ」 秀の突飛な提案に呆れて苦笑した勇次だが、思い出したようにそうだと付け加えた。 「だったら出稽古先をあたってみるか」 「ほんとか!おめぇの客は金持ちが多いからな」 「まあな。次は幸せになれそうな飼い主を探すよ」 その一言がなぜか一瞬、秀の鼻の奥を熱くさせた。無言で視線が絡む。 「・・・頼むぜ」 目を逸らして答えると秀は籠を取り上げ、猫を抱いた男と共に診療所を後にした。 ★ 妄言ノ間「目次」に戻る
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