今回より元締・鹿蔵に代わり、おとわ登場!

 河原に脱ぎ捨てられた同心ユニフォームの大写しから、いきなり主水のセミヌード!? 季節は夏。汗塗れの肌に目が眩んだ秀のときと違って目が潰れそうになりました。
 水に潜む河童のようなコミカルな眺めに反し、背後で釣りをする左門(やはり足出し)と交わす会話はシリアス。 鹿蔵さんが夢に出てくるくらいには、八丁堀は元締めを信頼していたんですね。 そして「鹿蔵のとっつぁんに会いたいか」と訊かれて素直に「うん…」と答える左門も。
 裏の仕事が最近の主な収入源になっていただけに、今後の見通しが立ちませんが、心もとないのはそのせいだけでないような気がします。 一度踏み入れてしまったこの世の実相を見ないふりして暮らしていくことに対する迷いが、 真面目なもののふとしての左門の中にすでに生じているのでは、と感じました。 人間の不可解さを教えてくれた(ことで強くなれた)鹿蔵に対する思い入れも含め。
 大人ふたりはわりと正直にお気持ち表明しておりますが、 もし秀がそこに居ても、ふて腐れたツラでひたすら水面に石を投げ込んでるだけでしょうね(置いてかれっ子)。

 さて、素人女の裸絵を描くことを生業にする上方の絵師・勘次と、彼にヌードを描いてもらっている薄幸の娘・おさよ。 船宿の一室で写生する勘次を取り締まる側のはずが、同席し若い娘の柔肌を出歯亀する八丁堀。
 普段は船宿の下働きをしている女中が、生身の肌をさらして自らの美しさや若さを絵師に描きとって貰うことで、 しがない日常とのバランスをとっている。 若い娘が何故こんなことをするのか、という八丁堀の問いに対する勘次の回答が、現代にも通じるテーマに思えます。
 そしてこのおさよが働く船宿に暮らす三味線弾きが、おとわでした。

 八丁堀が帰った後、どんな役人だったか勘次に探りをいれるおとわ。話を聞いて、ばっさり「間抜け」呼ばわり。 粋でさばけた人柄とかなり辛辣な性格が、その場面だけで語られてますね(笑)。
 その後、自ら八丁堀に接近し裏の仕事を依頼して、鹿蔵去った後の仕事人たちを激震させるのでした。

 一方、裸絵に目をつけたヤクザ・蝮の吉兵エ率いる一味が、モデルの素人娘を女郎にしようと勘次を捕らえて拷問します。 蔵のなかで酒か醤油樽で前後から挟むとか手を潰すとか、やり口がえぐい。 でもこの勘次さん、かなり痛そうなのに案外しぶとく粘る。陰惨な場面でもコミカルな演技がやけに光っています。
 この役者さん誰なんだろうと後から調べてみたら、横山エンタツの次男にして吉本新喜劇の二大巨頭の一人、花紀京さんという喜劇俳優でした。 秀に頼んでおいたおさよにあげる簪を取りに行った際に、隣の美鈴ちゃんを見てさらさら写生するシーンや、 「綺麗なものが好きや」と随所に語られるシーンなどもすごく良い。
 世間の冷たい風に吹かれて咲く儚い"花"たちの美しさを描きとめて、生きた証を残すのが己の仕事。 アーティスト勘次の矜持が伝わる名演だと思いました。
 しかしおさよは船宿から連れ出され女郎に堕とされ、ヤクザの仲間になる話を断った勘次も惨殺されてしまいます。 背中を斬られて橋の上から投げ込まれておきながら、船宿まで流されてゆき、見つけたおとわに最後の願いを告げて沈んでゆくのですが、 やっぱり死ぬ時まで諸行無常な饒舌さがコミカルで、そこがまた悲しい(合掌)。

 翌日、上がった遺体を検分にやって来た八丁堀が、橋の上で乞食のような身なりの流しの三味線弾きを見かけます。 みすぼらしいわりに女の調子のいい小唄に、通りすがりに耳をそばだてる八丁堀。 はっきりと「仕事人〜」とか盛り込んで唄ってるし。大丈夫かおとわ!?大胆過ぎるぞwww
 ま、郊外のせいか集まってるのはそこら辺の農民とか村人ばかりだから、 仕事人の意味が分からんのかも知れませんが(誰も突っ込まない)。
 流しの正体を、先日ふいに接触してきた謎の女だと見定めて船宿を訪ねる八丁堀。 待っていたおとわはあっさり認め、謎かけをして試したと打ち明けました。 そこであらためて、おさよからの勘次敵討ちの依頼を持ちかけられるのです。

 今回の裏仕事は八丁堀が手を下さず、小役人がヤクザをもてなすという名目で、夜の屋形船に誘い出す役割。 おとわが座持ちとして同乗しています。
 蝮の吉兵エら客にゴマをする主水。そこに突然船に異変が起き、用心棒二人がまんまと陸へと降りてしまう。 闇のなか、茂みや浅い水辺で待機する秀と左門。
 秀がこんな風に茂みの奥や色んな障害物を隔てて標的(まと)に合わせて並行移動してゆくシーン、すごく好きです。 主水の相手の隙をつく殺り方と違って、真っ向からタイマン勝負の左門ももののふらしくていいですね! 終わったあと、リアルにハァハァ息を切らしている左門が特に好き…。
 屋形船の中ではおとわが、吉兵エを三味線に仕込んだ刃で刺し殺して終了。 ここに至るまでの経緯でおとわの手腕は分かっていたにしても、間近で実際の仕事ぶりを見た八丁堀が何と思ったか。
 船宿におとわを送った帰り際の二人のやりとりが、互いが互いを認めた証しのように感じた明るくも凄みのある幕切れでした。


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 ここからは、勝手な捏造妄想です。
 丸髷スタイルで仕事の道具は撥のおりくさんとは、おとわさんは別人。
 でもですね!二次創作ワールド限定で、実は血の繋がらない拾い子がいて、それが勇さん(!)という設定でも、 全く支障がない気がしたのですが。暴論すみません。
 それである日なんの説明もなく「江戸に行く」といなくなった母を探して上方より出て来て、 ようやく船宿という居所を探し当てた際、たまたま繋ぎに来た秀とのニアミスも…あり!?

「―――…」
(お入りって言われたから入ったのに先客いるのかよ…)
 元締と向かい合って座り、煙管を手にした若い男をじろりと見る。涼しい顔で見向きもしない。
(野郎…いきなり無視か?) イラッ 
「俺に用がねぇなら帰ぇるぜ」
「まぁお待ち。相変わらず気が短いねぇ」
 すぐさま背を向けたところに、おとわの皮肉に紛れて小さく噴き出す声を聞きつけた秀。 振り向きざまギッと男を睨む。悠々と煙管をつかいながら男が一言。
「オレが外そうか、おっかさん」
「!!!」
(おっか―――!?)
「あたしは別に構いやしないけどね」
 うっかり動揺しかけた秀だが、おとわの言葉に我に返ると、グッと唇を噛み無表情を貫く。
「俺は御免だ。外してもらおう」
 そこで男がようやく、出入り口に立ったまま睨み付けている秀を初めて見遣った。
「……」
「……」
 無言で視線を合わせるが、双方なかなか目を逸らそうとしない。やがておとわの小さなため息で、張り詰めた場の空気が一瞬殺がれる。
 それを合図に白い瞼を伏せて先に逸らせた色男が、
「じゃ、また後で」
どことなく歌うように低い声で告げると、音もなく立ち上った。
 その隙のない身のこなしから片時も目を離さずにいた秀は、戸障子の前で脇に身を避けた。 自分とほぼ同じ高さに並んだ切れ長の目と、今度は間近でかち合う。
 その瞳の奥の闇を捕えたと感じた一瞬。一本の糸でピンと吊られたような戦慄が、秀の背筋を鋭く走った。


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ギャグです。
(けっこう可愛い野良猫だったな…。京では見ねぇ生きもんだ^^) by勇次



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