敵対する相手が実は同情できる過去を持っていて、死の直前でその辺りの心情が語られる。 上方から江戸に単身乗り込んで来た孤高の仕事人・壬生蔵人。
 登場するだけで独特の重厚な存在感を放つ丹波哲郎さん演じる蔵人は、 元締の鹿蔵をして「殺すことしか考えていない仕事人」と評される。 が、そこまでの非情を極めるためこれまで全てを切り捨てて来たであろう、孤独で壮絶な生きざまが言動の端々に滲み出ていました。
 川に落とした美鈴の毬を拾ってやった縁で、畷一家と仲良くなった蔵人が、 後に左門との対峙するシーンで問いかける科白が重い。 守らねばならぬ存在を持つ左門自身が、誰よりもその重さを受け止めたことでしょう。
 主水の耳にも三途の川の流れる音、殺った相手がおいでおいでする声は聞こえているのかも知れません。 すべてを自分一人の仕業ということにして、牢のなかで横死した仕事人を見つめる主水の目が、 ちょっと潤んでいた(ように見えた)のが印象的でした。



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