今回の天使は、幾多の妨害を乗り越えて真実の愛を貫こうとする若い男女の、 「キューピッド 兼 用心棒 兼 客引き係」という。
 簪一本買って貰っただけで、細工仕事そっちのけで世話焼き&お手伝いに奔走する錺職人って、意味わからん!! しかも頑固親父に説教まで垂れる!?公式の秀の暴走につっこみが追いつきません!!!(誉めてます)
 一作前の出張編に引き続き、今回も商人の父とその息子の話です。 しかし前回がどっちもクズだったのに対し、このお話では商売のためには非人情なこともやるのが正義と信じるワンマン親父に、 よく出来た息子が徹底的に抗います。心に決めた女と一緒になることを望み、 どんな妨害にも負けず一途に生きようとする謙虚な青年。
 そんな若いふたりの幸せを、陰になり表になり手助けしようと奮闘する、 我らがヒデエルのおせっかい悲話・・・?


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 呉服屋の唐津屋・清造は、御用人・柳原主膳から将軍家ご用達呉服商人としての認可を受けることになった。 それまでは越後屋が一手に引き受けていた利権をそっくりそのまま手にすることになる。 越後屋は柳原に必死の直談判をするが逆に無礼討ちとなり、跡取りのいなかった越後屋はそこで瓦解してしまう。
 越後屋の妻・およねは店を畳むと、使用人に与えた財産の残りを使って仕事人を雇おうとする。 酔ったおよねとたまたま出会ったおとわは、女から柳原の悪行を聞かされる。
 およねは柳原の元妾で、飽きたおよねを越後屋の妻に押し付けたのも柳原だった。 その代償として、越後屋は御用商人としての看板を掲げることが出来たのだったが、重くのしかかる賂に内情は火の車。 吸えるだけ甘い汁を吸い尽くしたのち、もう引き出す金がないと知るや柳原は、唐津屋へと次の寄生先を鞍替えしたのだった。
 そんなことは知らない唐津屋の主。商売ひと筋で叩き上げてきたものの、泣かせた人間は数知れず。 跡取り息子の清一郎の母もその一人だった。
 母亡き後も、父の後ろで商いの勉強をして粛々と過ごしている清一郎にも、将来を約束した娘がいた。 それは小間物屋の笠置屋の娘・お春。 ふたりは近々夫婦になることを誓いあっていて、それは両方の親にも了承済みのことだった。
 お春の祝言用の簪を新調し、それを作っている錺職人・秀の元にある日お春が訪ねてゆく。 お春と秀のただならぬ親し気な雰囲気に、隣人の娘・美鈴は動揺を隠せない。早くも父にご注進に及ぶのだった。
 そんなことにも気づかない秀は、迎えに来たお春と連れ立って出かける。橋の上で待っていたのは、許嫁の清一郎。 幸せいっぱいのふたりのやり取りを眩しそうに傍らで見守る秀。まるで自分が結婚するかのように嬉しそう。
 長屋に戻るなり隣の奥様・涼さんからも、「お嫁さんを貰うんですってね」とお祝いを言われ、ようやく誤解を解く始末。 半裸で嫁入り前の娘と長屋の密室で話しするなど色々やらかしているのだが、そんな事なんか知っちゃいねぇ。
 「違いますよ」と爽やかに否定するお兄ちゃんを覗き見して、会心の笑みを浮かべる美鈴ちゃんでありました(笑)。

 今回の仕事となる背景の大まかな説明のはずが、導入部の時点でもう秀の不思議ちゃんぶりが炸裂。 いまいち秀の立ち位置が分からないままに展開を見守ることにします。
 先述のとおりパトロンを乗り換えた柳原、今度は妾腹の自分の娘を唐津屋に押し付けようと目論みます。 息子と柳原の屋敷に呼ばれて「娘をお前の息子の嫁にやろう」といきなり恩着せがましく言われ驚く清造でしたが、 とっさに息子の幸せよりも商売の利権を優先する。「ありがたきこと」と礼まで述べて、店に戻ってから清一郎になじられます。
 しかし商売で頂点に上り詰めることに目がくらんだ父は、 「笠置屋さんも商売人なら分かって貰える」といって、お春との縁談を白紙に戻すことを強要するのでした。 もちろん清一郎は承服しません。
 しかしその噂が町に広まりひとり歩きしているのを早くも聞きつけた秀、 逆上して清一郎を見つけ出すなり、問いただす前に問答無用でボコ殴り(おいおい)。 他人の縁談にここまで怒れるほうが逆に怖いわ!
 血を流しながら(普通にひどい)必死で誤解を解こうと、荒ぶる秀にむしゃぶりつく清一郎。 ちょっとコームダウンした秀に、やっと話を聞いて貰えました。
 父が商売のためにその縁談に乗り気なことを打ち明けるも、 清一郎は「家を出て来た」ときっぱり宣言します。従順そうに見えてしっかり自分の考えを持った若者でした。 その一言でコロッと清一郎を信用してしまう秀、単純すぎるw
 ところが今度はお春のほうが、急に「清一郎さんと夫婦になれない」と言い出したのです。 清一郎がどんなに尋ねてみても、理由を答えず泣くばかりのお春。 実は清一郎の嫁取り話が柳原から出た後、お春は何者かの差し金により、 ならず者たちに純潔を穢されてしまっていたのでした。
 清一郎から話を聞いた秀は、自分の簪の卸し先であるお春の実家に押しかけます。今度はいったい何をするつもり!? な、なんと笠置屋の主人を振り切って、正面切ってお春の部屋にずかずか上がり込んでいきました。 さらには彼女を店の外に引っ張り出し、無理やり駕籠をつかまえて押し込みます。 ここまでで不法侵入および拉致誘拐の罪を犯していますが、 猪突猛進の秀に圧倒され誰も止められる者はおらず。
 駕籠と並走してお春を連行した先は、なんと自分のボロ長屋。 そこで中で待たせていた清一郎と二人きりにさせてやるという、味なサプライズ!!用意周到じゃねーか! やっと心を開いたお春は、清一郎の愛に絆されて立ち直る勇気を持ち、夫婦になることを誓うのでした。
 カップルの逢瀬に部屋を明け渡し、己は外で夜を明かすキューピッド。 夜空を見上げて我がことのように微笑みを浮かべる姿に、どこからツッコんでいいのか分かりません(困惑)。 よく考えてるのかいないのか、天使の脳内の仕組みははかり知れませんが、 秀のゲリラ的プロポーズ大作戦は圧倒的成功を収めました。とりあえず良かったな、3人とも。
 その後ふたりは、互いの実家を出て小さな橋のたもとで二八そばの屋台を始めました。 親の商売に頼らず、一から新しい商いを始めようとするところが健気ですね。 さてここでも秀、てめぇの本職そっちのけでなんと店に居座って客引き係をかって出ており。なんだそれ!!
 珍しく愛想笑いしてひっぱり込んだ八丁堀は良いとして、 半吉の薄財布でおふくの蕎麦代(六杯分)まで払わせるとはな。 一般人や弱い者は熱心に助けるくせに、裏の仲間にはとことん無慈悲で塩対応です。 このギャップをおかしいと自分ではぜんぜん思ってないらしい秀、誰かツッコんで! ああ〜つくづく三味線屋の登場が待たれます。(握りこぶし)
 とまぁ、そんなささやかながら幸せいっぱいの屋台も、 どうにかして息子を諦めさせたい一心の親父のせいで、またもならず者どもに荒らされるピンチに! しかしそこはどこからともなく疾風の如く現れたミニスカポリス、もとい用心棒によって撃退されます。
 三人でめちゃくちゃになった屋台を片付けていると、行方知れずの息子をようやく見つけた清造が登場。 このままでは柳原様に申し開きが出来ないと、どうあっても清一郎を家に引き戻そうと迫ります。 清一郎はここではじめて、真っ向から父への抵抗を口にするのでした。
 死んだ母の実家からも金を引き出させて商売の犠牲にしたこと、 商売のために例の越後屋さんも含めてどれだけの人の恩をないがしろにして来たかということ。 その上で、自分は十六文の蕎麦を売り歩く地道な生き方を選ぶ、 そしてその夢にはお春という最愛の女性の存在が不可欠なのだということも。
 息子に過去の自分のしたことを指摘され動揺するも、長年積み上がった利益至上主義の価値観が簡単に崩れるはずもなく。 「親不孝者!」と罵る清造の前に、突然割り込んできた者がありました。
「唐津屋さん、見た通り聞いた通りだ。清一郎さんのことは諦めたほうがいい。 さっきの蛆虫どもにお春さんを襲わせたのはあんただろ?清一郎さんはそれを知ってるよ」
「!!なっ・・・、なんだあんたは!?」
 いきなり図星をさされてうろたえつつ、逆ギレしかける清造の心の叫び。
※想像です(なんだこのつんつるてんの格好した若造は?!なんだその半袖!? そんな着物着てる人間なぞ江戸で見たことないぞ!髪もぼさぼさ!まさかまだ子供か?←)
 こんな得体の知れん輩と息子がつるんでるとは先が思いやられる。 着物もまともに着られないやつの言う事なんて聞けるか!! しかしその若造の発した言葉は、なぜか清造の忘れかけた心を呼び覚ます鮮烈なものだったのです。
「お春さんは、私たちの幸せを壊さないでって言ったろ。あんたはご用達の金看板のほうが大事なのか? せっかく自分たちの看板をあげようとしてるんじゃないか。そっとしておいてやれよ、俺からも頼むよ!」
 こんな感じのことを必死で訴えかける秀。 最後の「そっとしておいてやれよ、俺からも頼むよ」ってところがこれまた切ねぇ!!
 これって秀自身の願いでもあるような気がしました。 仕事人を続けてるのは自分の意志だけど、 裏の世界のことも他人の血で濡れた己の手もすべて無かったことにして生きられるものなら・・・という叶わぬ願い。 いまさらどうにも外せない枷をつけた自分と違って、 清一郎とお春のような罪なき人たちには、精一杯幸せになって欲しいという。
 秀が市井の人々や弱者に並々ならぬ同情を抱き、 しばしば自己犠牲的なほどの献身ぶりをみせるのは、そうした秀自身の心に秘められた哀しみと希望ゆえではないかと。 切実な声音に深読みせずにはいられませんでした。
 訴えは至ってシンプル。でも人間愛を喝破した若造の言葉に、親父の岩盤並みに凝り固まっていた心についに亀裂が入る! 岩清水の一滴が岩盤の裂け目から深いところに沁み込んでいきました。 商いでの成功を追い求めるあまり人間らしさを長らく失してましたが、根っこの部分では愛を感じられる人だったのです。
 すっかり目が覚めた清造さん(いきなりさん付けという手の平返し)、その後単身で柳原を訪ねてゆきました。 なんと御用商人の看板の返上および、縁談の破棄をみずから願い出ます。 こんなこと、御用人にとって寝耳に水の裏切りでしかありません。 激怒した柳原によって、あわれ清造さんはそのまま還らぬ人と成り果てました・・・(合掌)。
 父が「自害した」との知らせと、遺体引き取りを下知され驚き嘆く清一郎夫婦。
「罠だ、行っちゃいけねぇ!」
 自害などする理由がないのだから、これは明らかに罠だと止める秀に、 これまで父に反抗ばかりしてきた自分が出来ることはこれしかない、そのために命を落としてもいいと清一郎は答えます。 このときの秀の表情、ものすごい目力。ここまで全力でふたりの幸せをサポートしてきたってのに、 心を入れ替え仲直りした清造さんを最後の最後で殺させてしまった・・・という口惜しさがみなぎってました。
 ここから先は裏で始末をつけるしかねぇ!遺体を引き取りにゆく夫婦をひそかに囮として、仕掛ける仕事人たち。 今回、左門は最初の長屋シーンと仕事の時にしか出てこなかったんですが、 柳原の家来たちを、八丁堀と共になぎ倒すように瞬殺。剣の重さを感じる腰を落とし気味の動きがリアルでカッコいい。 「怪しい奴がいたぞ」と曲者の仕業と見せかけて場を攪乱する八丁堀。その間に秀がメイン悪の柳原を狙いに行きました。
 ちなみに冒頭に出て来たおよねは、おとわに仕事料を託すと柳原邸の表門前で自害して恨みを表明。 清一郎たちは秀の正体を知らず、自分たちを陥れようとする陰謀をもまるで知らないままに、 およねを頼み人とした仕事人の働きで、父の仇をとり窮地をも脱するというオチも見事でした。

 身の安全のため、秀に見送られて江戸を出る清一郎とお春。秀がちょっぴり寂しそうな表情を浮かべてたのが切ないですが、 ゲストが最後まで生きてためでたい例ですね。 キューピッドの頑張りを思うと、ホントに無事で良かった、亡き清造さんも草葉の陰で感謝していることでしょう。
「今おれたちがあるのは、何もかも秀さんのおかげだ。あのひとは仏の国からやって来たんだよ」
「そうね、きっとそうよ。秀さんは神様のお使いだわ!」
 この先長い年月が経っても、二度と会うことのない不思議な友人について、 夫婦の間で幾度となく語り継がれる違いない・・・と想像しながら珍しくほのぼのと終わります。
 今回もおつき合い頂きましてありがとうございました。



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