今回すごく新鮮だったのが、江戸を飛び出しての出張仕事!
 舞台は中山道・木曽路。しかも家庭持ちには、普通の観光客を装わせるための元締の発案によって、家族総出で連れて行くという。
 元締、いや〜太っ腹だこと。今回、頼み料が百両とくれば支度金として多少の散財しても構わないのでしょうけれど。
 しかし、やるとなったら大がかりになろうが無茶な要求であろうが、依頼人にも仕事人にも頑として筋を押し通す。 そんな極妻感はんぱないおとわさんが、若い男女を己が利益のために引き裂こうとする悪党どもを地獄の底に叩き込みます。

 そもそも百両払ったのが、今回のメインクズ(誉めてます)・忠兵ヱなんですね。 何を商ってるかは忘れましたが(たぶん札差)、後ろ暗い依頼のための大金を簡単に出せる辺りがすでに真っ当じゃない。
 吉原の女郎・おりえが、近々豪商の油問屋に婿入りが決まっている息子の新左と駆け落ちした。 行き先はおりえの故郷・木曽福島宿ではないか。吉原ではそう見当をつけると忘八衆に後を追わせます。
 会話のなかに出て来たこの「忘八」とは何ぞや?と調べてみたら、吉原一帯に寄宿している無頼のことでした。 外道中の外道、ごろつきたちの仕事は、男ともども逃げた女郎の私刑。他の女郎たちへの見せしめということもあるのでしょうか。
 忠兵ヱは息子まで斬られちゃかなわんと、おとわに忘八殺しを依頼。 おとわは愛し合うおりえと新左を逃がしてやることを条件に、忘八殺しを引き受けますが、忠兵ヱには魂胆がありました。 木曽一帯をシマにする旧縁のヤクザ・木曽駒勝蔵親分に密かに連絡をとり、 仕事人とは別口で新左の身柄の確保および、おりえ殺しを依頼するのです。
 金さえ払えばどんなことも思いのままにしてみせる。 そんな忠兵ヱの性根を見抜いていたのか、おとわもまた旅芸人に身を変えて仕事人たちとそれぞれ現地入り。
 まずは忘八殺しを完遂させた後で忠兵ヱの企てを暴き出し、仕事にかける! 仕事人を騙せば、そのツケは必ずや命と引き換えに払わされるってこと、言われていたのに甘く見ていたんですな。
 薄幸のおりえに肩入れする元締が、最後まで哀しい顔をしていたのがとても印象に残りました。

 筋書きとしては以上ですが、蛍の妖精・秀の衝撃も冷めやらぬうち、またもあらたなる衝撃波が我を襲う!!
 今回の秀は、美脚の飛脚に扮してます・・・ってそのコスが秀の普段着なんだってばよ!(ですよね?) いやはや公式様、毎度お世話になります(揉み手)。

 仕事人チームの木曽入りまでの時間差による連係プレーも、出張の見どころだったと思います。
 駆け落ちのふたりを追い江戸を出た忘八の動きを、まずは監視せねばなりません。 そこで秀にさっそく先発隊の指令が。
「あんたは身軽だから」とおとわに言われる秀。 独り身って意味のはずなのに、ほんとにとことん「身軽」な恰好で山道を駆けてゆくシーンでまず倒れました(私が)。
 あいかわらず胸元大開きの短い単衣に下は同じ紺地のショーパン、もとい半股引き。 これまた紺地の脚絆に草鞋の生足もエロ爽やかに、飛脚もかくやとばかりの猛スピードで疾走、いや爆走しております! 上体はぶれず長い脚だけが地を蹴り跳躍する。若い牡鹿のような美しく無駄のない躍動。ああ、走れエロス・・・!!←

 ハァハァ。秀がひそかに二人の護衛についてる間に、江戸ではおとわが家庭持ち組の出張の説得にかかる。
 裏の仕事のためにカモフラージュとして家族旅行を持ち掛けられた左門、「困る」と渋りますが、ここで元締少しもひるまず。 仕事人の世界に自ら手を染めた以上、泥沼からはもう脱け出せない。 「だったらせめて、泥沼に蓮の花を咲かせましょうよ・・・」と唄うように囁くおとわに何も言えない左門でした。
 旅の途中、さすがにおかしいと思った賢妻の涼にも、本当のことを教えてくださいと迫られますが、 うまく美鈴に話をふってその場は言い逃れます。この時から涼さんは夫のことを何か隠していると心配していたんですよね。 それが悲しすぎる結末へと少しずつ進んでいっていることを、知ってか知らずか・・・。
 一方、中村家。こっちは気楽なもので、せんとりつは大はしゃぎ。 それは良いとして、八丁堀に科せられたミッションは、上司に休暇願を出すことおよび、 畷・中村両家の家族分の通行手形を取得することでした。畷家は親戚ということにして。
 仕事もろくにしないのに休暇かと上司に盛大に叱責されるも、 そこはなかなかしっかりもの(ちゃっかりもの?)のりつからの贈り物を差し出すことによってうまくいくという。
 このシーンが差し挟まれることで、 家族に隠れて仕事人の顔を使い分けざるを得ない左門・主水の苦労がリアルに感じられました。

 そして木曽での仕事。家族を遊ばせたり名物を食べさせたりしながら、連携して六人からなる忘八たちを片付けた左門と八丁堀。
 一方の秀はといえば、おりえと新左に気づかれずに身辺の警護をしつつ、 中山道沿いに自分たちの足取り(元締めへの手紙)を残して、仲間たちを誘導します。手練れの忍びみたいですね。 最初被っていた縁が丸い網代笠(多分)も妙に似合って可愛かったっス。
 そして恋人たちがいちゃいちゃしているときには、草むらに仰向けに寝転んで見ないふりだなんて、めっちゃ気が利いとる! ところがそのちょっと気を利かせた隙を突いて、例の地元ヤクザの子分たちがふたりを見つけて襲ってきます。
「そこのふたり、逃げろ!!!」
 叫びながら、複数の子分たちと単身戦う秀。 しかしここでいつもの業ものを使うわけにはいきません。 秀は子分のひとりに傷つけられ、そのあいだに新左は連れ去られてしまいました。 しかし辛うじて、身をもっておりえには毛ひと筋傷つけさせなかった秀、やっぱり天使にしか見えぬ!!
 隠れ屋でチームが集合。その時におりえも連れているのですが、黙々と自ら包帯を胴に巻き付け手当てをする秀。 自分に関しては誰にも触らせず手を借りる気もない。それを当たり前のように考えている秀の淡々とした態度が、 これまでの孤独な生き方を表しているようで(もの凄く若いのに)、切なかったです。 もちろん、もろ肌脱ぎの上半身にも半分は気をとられてましたが(白状)。

 その後、秀がヤクザ宅から新左を連れ出し、おりえと新左は再び手に手をとって逃げるのですが、 物語はここから一気にやるせない結末に向けて突き進みます。
 逃避行中も、ときおり迷うような素振りを見せだしていた新左を何度も説得しながら、やっとたどり着いた実家。 夢にまで見た懐かしいふるさと、そして恋しい母の姿を見て飛び込んでゆくおりえですが、 母はおりえに気づくなり速攻で家に逃げ込み固く戸を閉じてしまいました。ガーン・・・
 なぜ、と戸にすがるおりえ。母も止むにやまれぬ事情があり、 この里ではほぼ村八分状態になりながらどうにか独り生きていたのでした。
 母にこれ以上の苦労をかけるわけにはいかない・・・。 哀れ、母にも見放されたおりえはそれでも母を思いやる言葉を残して、新左と共にその場を去るのでした。

 最後の当てが外れ、しかもたどり着いたのは人が住む場所とは思えないような貧しい田舎。 ここに来て、江戸で生まれ江戸の水で育ち、贅沢しかしてこなかった新左についに心変わりの兆しが。
 ふたりを見つけて追ってきたヤクザたちの中に、父・忠兵ヱの姿を見つけた新左は、
「もういやだ!!」
追いすがるおりえを突き飛ばし、父の方へみずから戻ってゆくのです。・・・やっぱり。ひでぇ。 よもやと思いつつも、ちょっと期待してたんだけどな、新左が本気でおりえのことを愛しているって。 こんな形でのいまさらの裏切りのほうが、何もかもを失くした女にとってどれほどにむごいことか。
 息子が自らおりえと離れて手元に戻れば、もう苦界で汚れた女に用はない。 秀たちが追い付くも間に合わず、おりえはヤクザ達に刺されてしまうのでした。

「約束を破りましたね・・・」
 おとわの一言で、逃げまどう忠兵ヱ親子もヤクザたちも仕事人の手にかかって始末されてゆきます。 秀が思いっきり新左に組み付いてゆく仕事シーンが泣いてるように感じられたのは、気のせいでしょうか・・・。
 すべてが終わったあと、渓谷の大岩の上に横たえたおりえの為に、おとわが聞かせるのが「木曽節」でした。 おりえは刺されたあとも即死ではなく、薄く目を開いておとわの三味線の音と大好きなふるさとの歌に耳を傾けています。 それを少し離れた場所で膝を抱き、ジッと見つめている秀。
 秀の片膝抱いてうずくまるようなポージングは他の場面でも出て来ますが、 「俺はあんたを虫けらだなんて思っちゃいねぇよ」って話しかける心の声が聴こえてきそう。
 悲しみをこらえ最期を見届ける様子が、必死に幸せを掴もうとしていたおりえへの慈悲に満ち満ちていると思いました。 自分までが捨てられた子犬のような淋しいうるうる目がもうたまんないですね(T ^ T)←泣くか萌えるかハッキリしろ!

 傷心の秀に、 後から元締が「名物の蕎麦、寄っていこうじゃないか。まだ食べてないんだろ?あんた」とさりげなく声をかけてるといいな。
 ところで今の今まで忘れてましたが、半吉も今回けっこう頑張ってたよ(ひどい)! けっこうなんて、失礼ですね。 ヤクザんちをスパイしててとっつかまって、す巻きにされて木曽川に投げ込まれたのに無事生きて戻るなんて、 よほどの体力と根性がないと出来ませんわ。半吉も帰りは一緒に秀と歩いて、冗談とか言い合って欲しいです。

 旅行中、りつがにわか俳諧師に目覚めて大変なことになってましたが、 「私も一句浮かびましたよ」と言う主水の一句が木曽路にゆかりの藤村の『夜明け前』のパロディというのもニヤリとさせますし、 また、りつと珍しくラブラブで終わるところも特別な出張回にふさわしい味な幕切れでありました。大拍手!!

 バンビ飛脚のせいか、駆け足で走り抜けたような妄想感想でしたが、 今回もおつき合い頂きまことにありがとうございました。



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